【レビュー】モンベル サイクルドライシェル
ゴアテックスのシェイクドライを採用したモンベルのレインウェア『サイクルドライシェル』を購入して使ってみましたので、レビューします。この製品は、ゴアテックスの新しい生地である『シェイクドライ』を使用した軽量なうえに高性能なレインウェアです。
■購入動機
軽くてコンパクトなレインウェアが欲しかったからです。興津600では、当初は雨の予報だったのでレインウェア上下を携行しました。ところが雨が降らなかったため、レインウェア上下は単なる重りに。仕方ないとは言え、上下で約450gの重量は結構なものです。
少し前からシェイクドライを使用した製品の事は知っていたのですが、このような『降るか降らないか』という微妙な天候の時に携行するウェアとして、軽量化のために購入してみました。サイクルレインジャケットは252gありますが、ドライシェルは170gですので約80gの軽量化になります。
また生地も薄いので、サイクルレインジャケットよりもコンパクトになります。生地は一切保水しないため、雨が止んだらすぐに仕舞えるのも魅力です。
■そもそもゴアテックスとは
ゴアテックスのおさらい
そもそもゴアテックスというのは何でしょう?一般に流通している『ゴアテックス』という商品は『ゴアテックスファブリクス』と言いまして、防水透湿素材であるゴアテックスを使用してウェアに使える生地に仕立てたものです。
ゴアテックスの生地は一般的に3層構造になっており、真ん中に挟まるのが『ゴアテックスメンブレン』というゴアテックスの素材そのものです。フィルムのような素材なので、そのままではすぐ破けます。そのため生地の防護やファッション性のために表地をつけます。また肌触りを良くするために裏地もつけます。こうして3層構造になっているのがゴアテックスファブリクスです。このファブリクスを使って、色々なメーカーがゴアテックスを使用した商品を作っています。
モンベルのサイクルレインジャケットも、3層構造のゴアテックスファブリクスを使っていますね。
シェイクドライとは
シェイクドライとは、ゴアテックスファブリクスから表地を無くした生地です。そのためゴアテックスメンブレンそのものが剥き出しになっています(裏地はある)。
私はこれを聞いた時に『ゴアテックスはフィルムだから、表地に出来ない素材じゃなかったのか??』と思いました。
話が違いますよね。そんな事が出来るなら、さっさとやって欲しかった。
ところがゴアテックス社は作ってしまいました。夢のような素材なのですが、実はいくつかデメリットもあります。先ほど紹介した一般的なゴアテックスファブリクスと比較してみます。まずはメリットから。
- 軽量である。
- 防水・透湿性能が非常に高い。しかも恒久的に持続する。
- 生地がしなやかである。
次にデメリットです。
- 扱いがデリケートであり表面の耐久性が低い。
- 高価である。
- 用途が限定される。
まずメリットの解説です。従来3層構造の生地が、単純に2層になってしまいました。そのため1層分軽量化されます。同じ理由で、生地としてしなやかになります。
また従来は、表地の撥水加工がどうしても低下してきます。すると多少の水を含んでしまうため重くなる、冷える、透湿性が低下する等の問題が発生します。ところがシェイクドライは素材自体が撥水するため『撥水性が低下する』という事が起こりません。前述の問題が一挙に解決します。
そしてフッ素コートを乾燥機などで加熱して撥水性を回復させる作業も不要です。すごい生地ですね。
一方、デメリットとしてはゴアテックス自体が剥き出しになっているため、扱いがかなりデリケートです。製品化するにあたり特殊な加工を施して表面の耐久性を上げているそうですが、摩擦に弱いためバックパックを背負うなどはもってのほか。絶対ダメです。
その他、ぶつけたりこすったりしないように注意が必要ですね。また特殊な素材なので高価です。その割には使用時の制約が多いため、人によっては出番が少なくなってしまいコストパフォーマンス的には今ひとつ、という事があるかもしれません。
ちなみに購入時にモンベルの人に聞いたのですが、反射ベストを着用する程度なら大丈夫でしょうということでした。強い圧力を伴う摩擦(壁にぶつかる等)や、輪行袋を担ぐなど荷重をかける事がNGです。
■サイクルドライシェルの製品概要
スペック
ようやくサイクルドライシェルの説明です。まずはスペックから。
価格は25,000円(税別)。そこそこのお値段です。同じモンベルのサイクルレインジャケットは23,000円(税別)なので、2,000円の価格差です。
重量はスタッフバッグ込みで181gです。スタッフバッグはジャスト10gでしたので、本体のみの重量は、カタログ重量と一致する171gでした。サイクルレインジャケットは本体のみで252g。収納しても一回りコンパクトです。
耐水圧:50,000mm以上
透湿性:98,000g/m2・24h
サイクルレインジャケットは耐水圧は同等、透湿性は44,000g/m2・24hとなっており、生地のスペックでは約2倍の透湿性を誇ります。
外観
外観です。取り外し可能なフード付き。
ゴアテックスが剥き出しになった独特の風合いです。
フードは細かくフィッティング可能です。後頭部にベルクロとコードが付いており、あごの部分にもコード付きです。生地の特性上『フードの上からヘルメットを被る』という行為がNGなので、ヘルメットの上からフードを被ることになります。そのためフードを使用する場合はこの機能が重要になります。
型崩れしにくい立派なツバがついています。
自転車用なので、前傾姿勢に対応して裾が長くなっています。
肩、袖、裾に反射素材が配置されています。サイクルレインジャケットは、ほとんど無きに等しかったのでありがたいですね。そもそもカラーがブラックしか無いために視認性が低いので、それを補うための機能といったところでしょうか。
裏側はきちんとシームテープで処理されています。
■使用感
先日の大洗・銚子300の試走で実際に使用しました。完走タイム18時間のうち、実に17時間半は雨に降られていました。その間はずっとドライシェルを着用。
透湿性
まず一番気になる透湿性です。サイクルレインジャケットの2倍のスペックを持つだけあり、透湿性はかなりのものだと感じました。ただ、やはり強度を上げると蒸れてきます。
この日の気温は18度前後でしたが、当初は速乾性アンダーウェア+長袖メリノウールというウェアリングでした。これにドライシェルを着ると暑すぎるため、途中からアンダーウェア+ドライシェルという組み合わせに。何もせずに立っていると肌寒い組み合わせですが、走り出すとちょうど良い組み合わせでした。中強度で走っていると蒸れることもなく、透湿していたと思います。
しかしこの点についてはサイドにジッパーがあり、換気が可能なサイクルレインジャケットの方がトータルでは蒸れないと感じました。
また気温も20度を越えてくると、透湿のみに頼るのは厳しいと感じます。フロントのジッパーを開ければ風が入ってくるため強制換気が可能ですが、中身の人間も濡れますので意味がありません…。
撥水性
一切保水しない生地であるシェイクドライですが、本当に保水しません。シェイクドライと言う名称はここから来ています。ウェアに付いた水も、ジャケットを『バサバサ』と降ると水があらかた飛んで行ってしまいます。
これは1日着用したので洗濯した後、洗濯機から出した直後の画像です。『バサバサ』とシェイクドライして水気を飛ばすとすぐにこのような状態になります。サイクルレインジャケットでも、こうはいきません。
従来の生地はどうしても表面が水と馴染んでしまうので、その部分が透湿性低下の原因となっていました。水に覆われてしまうと、透湿に必要な微細な穴が塞がれてしまうからですね(ブルベで雨の日に『濡れた反射ベスト』を着用すると、濡れたベストがレインウェアに貼り付きます。これによってベスト着用部分の透湿性はかなり失われていると思ってます)。
生地の透湿性が高いだけでなく、保水しない事によりその透湿性能を100%発揮することが可能なのです。しかもこの撥水性は恒久的に続きます。
サイズ感
私は身長170cm、体重58kgです。試着してみてSサイズを購入。生地のしなやかさとか、サイズ感を総合して要するにウィンドブレーカーだと思うと良いです。
着用感は非常にジャストフィットで、特にバタつくとかはありません。サイクルレインジャケットの時は同じSサイズでもやや大きめ感がありますが、ドライシェルはジャストフィットな感じです。
そのため走行中も空気抵抗が少なく、強度をあげてダンシングなどもやりやすいです。非常に動きやすい。ここが最も気に入った点です。
保温性
サイクルレインジャケットでは、雨が降っていない夜間の下りなどでもジャケットとして使用することがありました。防風性はもちろんのこと、ある程度保温されるからです。
しかしこのドライシェルはペラペラなので、防風性は高いですが保温には全く期待出来ません。ウィンドブレーカーと言ったのは、こんなところも含んでいます。しかし逆にそのおかげで強度を上げても体が冷却されるため、そもそも発汗を防いでくれる効果があります。
中に着用するウェアを上手に調節すれば、空気抵抗の少なさや生地のしなやかさ、軽量さと相まってキビキビ走るような場合に向いていると思います。
お手入れ
使用後の洗濯も可能です。洗濯方法は、その他のゴアテックス製レインジャケットと同様。洗剤を入れて、洗濯機で洗えます。生地は水を通しませんので、すすぎを2回。同じ理由で脱水はせずに影干しです。
また通常のレインジャケットであれば、表面の撥水性を回復させるために乾燥機などで(乾燥後に)加熱します。この製品は撥水機能をフッ素コートに頼っておらず素材自体の機能によって行っているため、加熱の工程は不要です。
洗濯後はハンガーに吊るして、生地にダメージを与えない様に保管しましょう。この辺も他のレインジャケットと同様ですね。
■まとめ
サイクルレインジャケットと比較すると軽量でコンパクト、フィット感もタイト目で生地もしなやか。撥水・透湿性最強のウィンドブレーカーという印象です。
脇下のサイドジッパーが無いため換気が出来ず、総合的な『蒸れなさ』ではサイクルレインジャケットが勝ります。
そのため活躍出来るのは秋に入って涼しくなってからですね。心拍数を上げずにまったり走る人か、中のウェアを減らせば(ある程度まで)強度を上げる事も可能。サイクルレインジャケットと比較するとスリムなので、速度を出したい人はこちらでしょうか。
私の場合、軽量・コンパクトなので雨が降るかどうか微妙な場合に携行する使い方がまずはメインになりそうです。
他のシェイクドライ製品も普段用のアウターなどに使われていますが、非常に高価です。でもあの独特のマットな風合いは、上手く使うと非常にカッコよいと思います。雨が降っても傘を差さなくて良いですし。