タイヤは高圧が良い?最適な空気圧を求めて転がり抵抗とインピーダンス損失について考える

morou2

さてチューブレスを使い始めて数か月が経ちました。
※記事の初出:2019/12/06。一部修正して再掲します。

感じたことは、一般道をより効率良く(=少ないパワーで平均速度を上げる)走るためにはタイヤの転がり抵抗(この時点ではヒステリシスロスの事を指します)の低減に加えてタイヤの路面追従性を良くすることが重要ということ。23Cや25Cのタイヤだと信号スタートの時は軽さを感じますが、巡航が始まると路面の状況によっては『28Cの方が良いな』と感じる場面も多くあります。

最近になってフックレスリムのホイールである『ENVE45』を買ったのですが、このホイールは28Cの標準仕様が想定されているホイールです。フックレス化による基本性能のアップと相まって、28Cにもメリットが増えてきたと感じます。

では、なぜタイヤの路面追従性を上げる必要があるのか?ブルベやロングライドは、アタックやスプリントするわけではありません。一人で淡々と数百キロのTTをするのが私の中のブルべのイメージなので、現在のところ28Cのタイヤを使い、路面追従性を上げて限られたパワーを効率良く路面に伝えることが、総合的に効率が良いと考えています。ラテックスチューブを使ったりチューブレス化したりするのも路面追従性を上げる、これが目的です。

ラテックスと言えば、ピンクのヴィットリアかグリーンのミシュラン

この『舗装の状態によっては、路面追従性が高い方が速く走れる』状況があることは皆さん経験で知っていると思います。だからあの石畳を走るパリ~ルーベでは、未だに専用のマシンやパーツが開発されているんですね。TREKのMadoneについているIsoSpeedしかり。あんなギミックを付けたら重くなるに決まっていますが、それでも最上位モデルのMadoneに装備されているわけです。一昔前は、『ロード用サンペンションフォーク』なども普通に使われていた時期がありました(すぐに消えてしまいましたが…)。

この『路面追従性』に影響を及ぼす要素ですが、一般に『インピーダンス』と呼ばれます。

路面の状況が悪くなったり、空気圧を一定以上に上げすぎるとインピーダンスによる損失の方が大きくなります。『このタイヤは転がり抵抗(ヒステリシスロス)が低い!すごい!』という転がり抵抗低減に特化したタイヤや高圧の空気圧だとむしろロスが大きくなり、遅くなります(サーキットの様な舗装の良い場所だけ走るのであれば別です)。

そこで転がり抵抗と路面追従性のバランスをとる必要が出てくるのですが、このインピーダンスとは何でしょう?転がり抵抗だけに気を付けていれば良かったんじゃないの?というのが今回のお話。

■転がり抵抗とヒステリシスロス、インピーダンス損失

転がり抵抗とは

まず転がり抵抗とは、タイヤに生じる進行方向とは逆向きの抵抗の総称です。転がり抵抗を構成する要素として、ヒステリシスロスやインピーダンスによる損失が含まれています。冒頭でも少し書きましたが、一般に『転がり抵抗=ヒステリシスロス』と思われがちですが、実際はそうではありません。転がり抵抗の中で、ヒステリシスロスよりもインピーダンス損失の方が影響が大きいという場面も存在します。

ヒステリシスロスとは

ではヒステリシスロスとは何かというと、タイヤの変形に伴うエネルギーロスのことを指します。タイヤは大雑把に言うとゴムで出来ています。ゴムは変形すると元の形状に戻る性質がありますが、変形する際にはエネルギーを吸収して熱に変換しています。例えば自動車のタイヤを低圧にしたままわざと高速道路を走ると、タイヤのサイドウォールが波打ち続けて異様な高温になり、最後はバーストしてしまいます。

自転車の場合に置き換えると、あなたがペダルに伝えたはずのエネルギーの一部が、タイヤの変形のために消費され熱として大気中に放出されているのです。

これを低減するためにはタイヤの変形を抑えれば良いので、この事が自転車タイヤを高圧にセットする根拠になっています。車のタイヤも同様です。

特に車のエコランではこういった研究が非常に進んでおり、実験データに基づいた理詰めでないと結果が出ない世界です。燃費はリッター3,000km以上が普通に出ますので、効率が0.1%でも違うと結果にえらい差が付きます。感覚と主観のインプレに基づいた自転車業界とはえらい違いですね。私も主観100%のインプレ記事を書きますが(笑)

タイヤの変形がなければ抵抗が減るのですから、鉄道のように金属100%の車輪があればこの抵抗を限りなく低くすることが可能です(車や自転車でやったら重くて走れないと思いますが)。車のエコタイヤと呼ばれる燃費の良いタイヤも同じ発想で、変形を抑えてヒステリシスロスを低減することで効率と燃費を向上させています。ただしエコタイヤにすると燃費は良くなりますが、騒音や振動が大きくなることも知られています。要は乗り心地が悪くなりますし、サーキットなど鏡のような綺麗な路面には適しているのです。

コンチネンタルのGP5000(のクリンチャー)は転がり抵抗が低いことで有名です。非常に良いタイヤなのですが、私は走行感が固くて好きではありません。これも『ヒステリシスロス少ない=変形少ない=固い』ということなのでは無いでしょうか。

またエコランの世界では、タイヤは中古タイヤになればなるほど燃費が良くなることも知られています。これはトレッドが減ってゴムが薄くなるとしなやかになり、変形に必要なエネルギーが少しで済むからですね。同じ段差を乗り越えた場合、分厚いゴムを変形させるのは大変(=多くのエネルギーが必要)ですが、薄いゴムだとしなやかなのでエネルギー損失が少ないんですね。

ヴィットリアにはコルサスピードというTT用のタイヤがあります。これは転がり抵抗が明らかに低い代わりに耐久性も低いという、一発勝負用のタイヤです。耐久性が低いというのはトレッドが薄いということですから、これも同様の発想だと思います。ちなみにエコランの世界では、新品タイヤをわざと摩耗させるための装置があったりするほどです。

コルサスピードの性能チャート

また乗り心地が悪いとはどういう状況か?というと、タイヤが変形しない(ゴムが変形しない)代わりに、タイヤが跳ねて接地しなくなったり、タイヤから車体に衝撃が伝わるということですね。そこで車にはサスペンションというものがついていまして、これによって振動を吸収しています。トレッドを薄くするとパンクしてしまいますからね。

インピーダンス損失とは

ここまで説明すると何となく分かると思いますが…

ヒステリシスロスで失われるエネルギーを抑えようとしていくと、タイヤを高圧にして固くする必要が出てきます。競輪場の様なトラック、もてぎや鈴鹿の様なサーキットばかり走れれば良いのですが、我々が走るのは一般道。

先ほどのエコタイヤと同じくタイヤを高圧にしてヒステリシスロスを抑えると、今度は路面が悪い場所を走った時にタイヤに伝わった衝撃をタイヤが吸収してくれず、ダイレクトに車体や人間に伝わります。下手をするとバイク全体が宙に浮きます。ロードバイクには車のようなサスペンションが無いですからね。

このタイヤで吸収されなかった振動は進む際の抵抗となるのですが、これをインピーダンス損失と呼んでいます。

アスファルトの状態の悪い個所を進むと車体が上下に跳ねますが、考えてみて下さい。仮にライダーの体重を65kg、自転車の重量を8kgとして、合計73kgの物体が路面から浮くほどのエネルギーが路面から返ってきているのです。この『73kgの物体を浮かすエネルギー』はどこから来ているのでしょう?

こういう段差が一番嫌い

そうです。自分がペダルを踏んたパワーの一部が推進力に変換されず、自分と自転車の合計73kgの質量を浮かすために使われているのです。タイヤの変形によるエネルギーロスだけでなく、ライダーと車体を持ち上げるためにエネルギーが使われるのですからこれは相当なエネルギーロスのはずです。またタイヤがバウンドしているような状況ではまともにペダリング出来ず、脚を止めてやり過ごすなどの更なる効率低下が発生します。

またこのインピーダンス損失は、アスファルトの状態によっても発生します。タイヤがバウンドするほどの段差でなくとも、表面が荒いアスファルトを走った経験があると思います。表面が平滑でなかったり、アスファルトと混合される砕石の大きさ(粒度と呼ばれます。5mm~13mm位まで色々ある)によって抵抗の大きさがかなり変わってきます。

これも舗装工事の施工直後の様に舗装表面が平滑であれば抵抗を最小限に出来るのですが、実際はそうでは無いことの方が多いと思います。こういった場面ではヒステリシスロスを低減させるよりも、タイヤを太くして低圧にするなどで路面追従性を高める方が効果的であると言えます。

この辺の研究は自動車タイヤの分野では多くの研究費が投入されており、舗装の粒度の違いによって抵抗値が1割ほども異なるという結果が出ていたりします。

■ブレイクポイント

ヒステリシスロスとインピーダンスの境目

ヒステリシスロスを抑えるにはタイヤを高圧にすることが有効でしたが、インピーダンス損失の影響を抑えるにはタイヤの路面追従性を上げる必要があります。その選択肢としては、主に下記のようなものでしょうか。

  • タイヤを太くしてエアボリュームを増やす
  • 空気圧を下げる
  • クリンチャーなら、ラテックスチューブを使う
  • チューブレスにする
  • しなやかなタイヤ、薄いタイヤを使う

ただし路面は常に荒れているというわけでもありません。綺麗な路面ではヒステリシスロスが低い方が有利ですから、このバランスを取る必要があります。タイヤが跳ねない範囲で、なるべく空気圧を高くしたいところです。

では具体的に、どの程度の空気圧の場合に効率が最高になるのでしょうか…?そのヒントがこちらの『シリカBlog:転がり抵抗とインピーダンス(ROLLING RESISTANCE AND IMPEDANCE)』に記載されています。

2014年に実施されたこのテストの概要ですが、

  • GP4000SⅡ(25C)+ZIPP Firecrest、空気圧100psi(6.9bar)
  • 転がり抵抗試験機のドラムの上では空気圧を上げれば転がり抵抗は下がり続ける
  • テストは3種類の路面で実施
  • 空気圧を徐々に上げていき、それぞれの路面での抵抗値を計測する

となっています。そのテスト結果ですが、グラフにすると下記の通り。赤い丸が『ブレイクポイント』です。このポイントを越えて空気圧を上げると『ヒステリシスロス』は減るがそれ以上に『インピーダンス損失』の増加が上回り、急激に抵抗が増えていることが分かります。

引用:SILCA blog

テスト結果の詳細をまとめると、以下の通りです。

  • ブレイクポイント手前では空気圧を上げるに伴い『ヒステリシスロス』が減る。全体の抵抗も低下。
  • ブレイクポイント以降では空気圧を上げると『インピーダンス損失』が急激に増え、ヒステリシスロスの減少分を上回り全体の抵抗が増加。
  • 荒れたコンクリートではたったの60psi(約4.1bar)でブレイクポイントを越える
  • 綺麗なアスファルトでも110psi(約7.5bar)でブレイクポイントを越える

先ほどのリンク先:『シリカBlog:転がり抵抗とインピーダンス(ROLLING RESISTANCE AND IMPEDANCE)』を見ていただくと分かりますが、綺麗なアスファルトというのはいたって普通のアスファルト。しかも実験で作成した路面ですから、ひび割れや段差などもなく、要するに施工直後の状態。それでも微妙な振動の影響で、7.5bar以上の空気圧だとむしろ抵抗が増えてしまうという衝撃の事実です。荒れたコンクリートでは4bar程度でブレイクポイントになってしまうという…。

もう1つ注目したいのは、ブレイクポイント前後のグラフの傾きです。ブレイクポイントに達する前、空気圧の増加に伴い転がり抵抗も減っていきますが、グラフの傾きはゆるやかです。ところがブレイクポイントを越えると一転して急激に抵抗が増加しています。

グラフに併記されているワット数ですが、その時の空気圧において失われている抵抗値をワット数で表したものです。例えば、緑グラフ(綺麗なアスファルト)の場合ですが、ブレイクポイントは110psi(約7.5bar)。その時にロスしているワット数は43Wです。

逆にその手前、100psi(約6.9bar)の時点では44Wのロス。要するに0.6barも空気圧を上げたのに、削減出来た抵抗値は1Wということです。

ところが逆にブレイクポイントから10psi上げて120psi(約8.3bar)になると、一気に9Wも抵抗が増えて52Wもロスしています。

このことから言えるのは、『適正な空気圧より高すぎるよりも、適正より低い方がデメリットが少ない』ということ。適正空気圧に迷ったら、保守的にやや低めにした方が良い!ということですね。もちろんこの辺は脚質だとか走り方の好み、当然ながら路面状況にもよりますから、『タイヤは高めの空気圧でカンカンが良い』という人もいると思います。踏み込んだ時のパワーロスは、空気圧が高い方が明らかに少ないですからね。

逆に私の場合は、極力パワーの変動が無い踏み方をしているので低圧でも気にならず、路面の形状にスムーズに追従する低圧・しなやかなタイヤでトータルの伝達効率の向上を重視している走り方です。

ひび割れや段差に突っ込んでタイヤがバウンドすると『パワーが無駄になった』と感じてしまいますし、更に言えばパワー損失だけでなく、腰が浮いて『まともにペダリング出来ない』状況になります。そのロスはインピーダンスの損失どころではないはずです。

結局、適正空気圧は?

今回のエントリは、『適正空気圧を探る』というのが主題です。これはもう状況によって変わるので何とも言えないというのが結論ですが、上記のSILCAブログのテスト状況と結果から、判断基準になりそうな空気圧を見てみます。

まず今回のテスト条件と結果ですが、

  • ライダー+車体(cervelo P4)の合計重量は190ポンド(約86kg)。
  • タイヤはコンチのGP4000SⅡ、25C。
  • 粗いアスファルト(黄色グラフ)の場合、約6.9barがブレイクポイント。

車体が仮に8kgだったとして、ライダーの体重は78kgということになります。なかなかガタイの良い人ですね。これを基準に私の場合で推定してみます。

私の場合は車体重量は同じ程度でしょうが、体重が58kgと20kgも少ないです。なので6.9barよりも空気圧はかなり低くセット出来ると思われます。またタイヤについては銘柄がしなやかなヴィットリアのコルサであり、太さも28Cですので、その分も空気圧の低さに反映出来ます。後はどの様な状態の路面にターゲットを合わせるか?ですね。私はやや荒れた路面で最適化されるようにセットしたいので、更に低く…。

となると今は5.5barにセットしていることが多いのですが、更に低圧にしても大丈夫な可能性があります。何しろ『迷ったら低めにセットしろ』なので。チューブレス化したら4barとかになります。フックレスリムのENVE45ですと、28Cタイヤを使った場合の推奨空気圧は、私の体重(58kg)だと3.7barとなっています。驚くと思いますが、非常にキビキビ走ってくれます。

ちなみに、ヴィットリアコルサの後にGP5000のクリンチャーも使いましたが、同じく5.5bar。その後にGP5000のチューブレスに移行して、こちらは4.5barで使っていました。

■まとめ

何となく感覚・経験では今回のテスト結果の様な仮説を持っていましたが、データで見せられるとまた違いますね。こと抵抗値に関しては、高圧にはデメリットの方が多いというのが意外でした。

最後は人それぞれの好みやどんな路面で最適化したいか、によるので強制は出来ませんが、一つの目安にはなると思います。私のように『段差でタイヤが接地しなくなるのは多大なロス!』という考えの人もいるでしょうから、ぜひ積極的に低圧で運用してみてはいかがでしょうか。しっくりこない場合はそこから徐々に空気圧を上げていって、自分にとって最適なセッティングを見つけましょう。これからは低圧の時代になるかも!ですね。

※何度もお伝えしますが、このブログの内容は『ブルべ・ロングライド』が大前提です。

そもそも、どうして空気圧は高い方が良いのか?ということを考えると『綺麗な路面では高圧の方が速い』ということがありますが、他には『23Cの場合、低圧だとパンクしてしまう』ということがあると思います。とにかくパンクしてしまったらレースでは致命的なので、転がり抵抗はどうでも良くて、パンクしないために高い空気圧にするしか無い訳ですよね。ところが、単純に太いタイヤを履けばパンクリスクに関してはある程度解消される訳です。この辺の塩梅は非常に難しいと思いますけども。

このように、空気圧で走りはかなり変わります。空気圧のセッティングをするには、エアゲージが必須です。『ゲージはフロアポンプに付いてるから要らん』と思っていましたが、早く買えば良かったと思ったアイテムの1つ。やはり正確な値が必要です。私もこれを使っています。

タイヤについては…転がり抵抗と耐摩耗性に、グリップの良さまでついてくるGP5000。

タイヤのしなやかさならコルサです。

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当サイトは自転車関連のパーツレビュー、ブルべの走行記録を中心としたブログです。
管理人は40代のロードバイク乗り。20年前にCannondaleのCAAD3を買って以来、Cannoncdaleばかり乗り継いでいます。 昔はメッセンジャーやレース、今はロングライドとブルベ中心。ブルべの主担当もやります。
年間走行距離は約10,000km。身長170cm、体重57kg。
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