【ディスクブレーキ】ローター交換のやり方。放熱性を高めて性能アップ
今回はロードバイクにおけるディスクブレーキのローター交換をします。完成車で買ったシナプスには、当初は安価な『SM-RT70』という型番のローター(105グレード相当)がついていたので、アルテグラグレードの『SM-RT800』に交換してみます。
※新型アルテグラ『R8100系』の登場で、SM-RT800は廃版になりました。現在はRT-MT800がアルテグラグレードのローターとなります。作業用の画像を『RT-MT800』に差し替えました。
今回の交換のディスクローター交換の目的は『放熱性能を高めること(と若干の軽量化)』です。ローターはかなりの耐久性があるので、そんなに簡単には減りません。ですが走行予定のSR600四国山脈では、雨の中を長時間下る(15kmとか…)事になるため、放熱性能アップのため事前に交換しておきました。
■ディスクローターの種類
ローターにはサイズがある
まずディスクローターにはいくつかのサイズがあります。ロード用にはアルテグラグレードの『SM-RT800』とデュラエースグレードの『SM-RT900』には160mmと140mmの2種類があります。MTBでは180mmや200mmなど更に色々な径がありますが、ロードではMTBほどの制動力は必要では無いため先ほどの2種類となっています。今回の『SM-RT800』は前後とも160mmを使用します。
※R9200/R8100へのモデルチェンジにより、ローターの型番はデュラエースが『RT-MT900』に、アルテグラが『RT-MT800』に変更になりました。
サイズによる性能の違い
160mmと140mmでは、20mmの直径の違いにより『放熱性』と『制動力の立ち上がり方』(と重量)に差が生じます。まず直径が大きいということは、単純に表面積が増えます。
160mmの円盤の面積は約201平方センチメートル、140mmの円盤の表面積は約154平方センチメートルです。その差、なんと1.3倍。シマノのSM-RT900/800シリーズはローターについているフィンが立体となっているので、それも含めるともう少し差が開くでしょう。ローターの径を大きくするだけで、放熱性が1.3倍にアップするのです。
また制動力の立ち上がり方にも差が出ます。シマノのマニュアルにも『140mmのローターを使用する場合、160mmのローターより制動力が低下します。140mmのローターはリアのみにお勧めします』と記載があるほど違いがあります。実際に使ってみましたが、20mmの違いで明らかに制動力に差があります。リアが160mmだと『リアだけで止まれる』レベルでガツンと一気に効きます。すが、140mmだと『スピードコントロール用』と言った感じです。
素材も特別
シマノのローターの多くはサンドイッチ構造になっており、放熱性の高いアルミを耐摩耗性の高いステンレスで挟んだ構造になっています。この『3層クラッド鋼板』は2011年に住友金属がシマノ向けに作ったとプレスリリースにはありました。これによって放熱性の大幅アップと軽量化を実現しています(このリリースは2011年の話ですから、今も住友金属から調達しているかは分かりません)。
ちなみにサイスポの2020年6月号ではローターのグレードによる放熱性の違いを検証するというコーナーがありました。比較対象はシマノのSM-RT800、SM-RT70、SM-RT30。ブレーキをかけながら3本ローラーを漕ぎ、5分後にRT800とRT30の温度を比較したところ約10度も差があったということです。やはりアルミを多用すると放熱性が高くなるんですね。
SM-RT70には色々ある
ちなみにSM-RT70は、元々MTB向けに出ていた型番なので203mmと180mm径のローターもラインナップされています(105『相当』と書いたのはそのため)。この大きなサイズの用途としてはMTB向けなのでロードには不要であり、シマノのマニュアルに『203mmと180mmは制動力が高過ぎるので使用しないで下さい』と記載があるほどです。ちなみに多くのフレームではキャリパーの位置が対応していないため、そもそも取り付け自体が出来ませんが。
ということで、各種の山岳SR600を走られる方はディスクローターの交換がお勧めです。長距離ダウンヒルはローターがかなり熱を持ちます。山岳地帯を走ると平地の天気予報は当てにならず、ずっと雨だったり霧の中だったりということも多いので、ローターの熱対策は有効です。
先日のSR600四国山脈でも雨の中をハードなブレーキングを繰り返しながら、2時間近くかけて下る場面がありました。さすがに気になってローターに手を近づけてみましたが、触らなくても熱を感じるほど加熱していました(危険なのでローターには絶対に直接触らないようにしましょう)。
■交換作業
それでは本題のローター交換作業です。作業自体は難しくありませんので、ローターの交換は自分で出来るようになりたいものです。
必要な工具
まずは工具を揃えます。ここではロード向けのお話をするので、ローターの固定方式は現在主流のセンターロックだという前提で進めます。必要な工具は、使うロックリングによって変わります。
センターロックの場合、ロックリングには以下のように3パターンの仕様があります。
以下がそれぞれのタイプで必要な工具となります。外セレーションはロックリングの外側に、内セレーションはロックリングの内側に工具をかけます。
- 外セレーション:TL-FC36
- 内セレーション:TL-LR15+モンキーレンチ
- 内外セレーション(外セレーションを使用):FL-FC36
- 内外セレーション(内セレーションを使用):TL-LR11+モンキーレンチ
TL-FC36はBBの脱着に使う工具と同じですね。
TL-LR15もスプロケの脱着に使う工具と同じなので、持っている人も多いと思います。
内外セレーションは外、内のどちらの脱着方法でもOKですよ!という方式です。ただし『内外セレーションを内セレーションで脱着する』場合は内セレーションで使用するTL-LR15は使えず、TL-LR11が必要になりますのでご注意。
こちらがロックリング。左が内セレーション、右が外セレーションです。
これが内外セレーションのロックリングです(CODE NO.:Y8JX98020)。内側、外側どちらにも工具がかかる溝があります。
上記ロックリングはSM-RT30ローターの付属品です。
どのタイプにおいても、溝が浅いので変な工具を使って舐めたら終わりです。しっかりとした工具を使うことをお勧めします。外セレーションの場合は、やはりシマノ純正のTL-FC36が全周タイプで柄がオフセットしているので非常にお勧めです。
と言いつつ、私は最初にこれ(下の画像)でやりましたが、かなり苦労しました…。結局、先ほどのTL-FC36を買いましたよ。ショップではしっかりとした工具でしっかり規定トルクをかけてガッチリ装着しているので(当然ですが)、そうでない工具だと必要なトルクが出なくて外せないんですよね。慣れていたら必要トルクが想像出来るので何とか外せますが、初見だとどの程度の力をかければ良いのか?が掴めずに大変難しいです。
繰り返しますが、少しでも不安があれば純正工具を買うことが時間的にも金銭的にも回り道せずに済みます。またこの工具の場合は持ち手にグリップが付いていないため軍手をしても手の平が痛くなります。それもトルクを思うようにかけられない原因の1つでもあります。
※作業内容に関わらず、怪我の予防のため軍手は着用した方が良いですね。
交換作業
工具が揃ったら作業開始です。スルーアクスルを抜いたホイールにTL-FC36をかけて、反時計回りに体重をかけます。ロックリングが薄いので、力をかけている時にずれて外れないように注意が必要です。純正工具は柄がオフセットしているので、これがやり易い。外す時は、ローターを汚れた軍手などはもちろんのこと、指でも触らない様にしましょう。油分が付着するとブレーキが効かなくなったり、音鳴りが発生したりする場合があります。
スプロケと同様にロックリング自体は薄いので、ひとたび緩んでしまえばすぐに取れます。
新しいローターの取り付け
RT-MT800を取り付けます。外した逆をやるだけです。
まずはローターをハブに取り付けます。
ロックリングを取付け。TL-FC36で締めて固定します。
出来ました。慣れたら1分もかかりません。ローターのロゴとホイールのロゴは揃えましょう。
■重量について
SM-RT70
気になるローターの重量です。今回は同じ160mmのローター同士なので比較がしやすいですね。まずはSM-RT70から。132gです。
SM-RT800
次はSM-RT800です。125gなので7gの軽量化に。アルミフィンが増えているので明らかに面積は増えている(=放熱性アップ)のですが、こちらの方が軽い。ローターを固定するアームの本数が6⇒4に減ったりしていますし、フィンの構造も全然違いますから、そういった箇所も軽量化に貢献しているのでしょうか。
ちなみにデュラのSM-RT900にすると、更に7g軽くなって118gです。140mmで良いなら一気に軽くなって100g。値段はSM-RT800の倍くらいしますけど。。。
MTBのXTRグレード『RT-MT900』を使うという手もあります。グランツールでもこれを使うチームがいますね。ロード用よりもフィンの面積が減るので軽量で、横風の影響も受けづらくなるメリットがあります。160mmで108g、140mmで88gとSM-RT900よりも軽いです。ちなみにデュラ、XTRに使われている黒いペイントは高放熱ペイントです。
※しつこいですが、『SM-RT800/900』は廃版になりました。現在は『RT-MT800/900』がR9200デュラ、R8100アルテの標準ローターです。
ロックリングの話
SM-RT800を買うと、内セレーションのロックリングが付いてきます。
先程の外セレーションのリング(重量:12g)よりもこっちの方が軽いのでこちらを使いたいのですが、このタイプだと脱着に必要な工具が2つ(TL-LR15とモンキーレンチ)になってしまうため面倒です。結局、外セレーションのロックリングを使っています。
■ローターの交換時期について
ローターの交換時期ですが、ローターのマニュアルを見てみると『摩耗して厚みが1.5mmになったら直ちに使用を中止して販売店へ相談』とあります。相談しても仕方ないので交換しろという事ですな。
もちろん目視でペラペラになったら交換すべきでしょう。マニュアルにも『内側のアルミ面が出てきたら使用を中止』とあります。しかし摩耗して1.5mmになったらと言われましても、そもそもの厚みは何mmなんでしょう?目で見た限りでは2mmあるか無いか、という感じです。要するにコンマ何mmという単位で、摩耗したら交換ということですね。
これは目視では無理…ということで、デジタルノギスで計測してみました。ノギスは信頼のシンワです。
まず新品の厚みですが、未使用のローターを計測したところ1.7mmジャストでした(写真は撮り忘れた)。次に、現在装着されているSM-RT800を120度づつ3か所ほど計測してみましたが、いずれもこの数値。1.68mmです。
あれだけSR600四国山脈で散々酷使しても、0.02mmの減り。四国では獲得標高8,000mくらい走って(しかも雨)これです。という事は、乱暴な計算で獲得標高80,000mくらいは使用出来ることになります(笑)
という事で、ディスクブレーキローターの交換方法でした。ローターの交換時期や重量もまとめましたのでご活用下さい。ちなみにローターは交換直後は本来の制動力が発揮されません。当たりがつくまでしばらくかかりますので、完成車で買った直後・交換直後は制動力が弱い状態ですので注意です。そこから徐々に効くようになっていきます。
私もこの記事を読んでローターを交換したいと思いました!
ですが、ローターは他のブレーキに互換性があるのか、分からないので教えてくれませんか?
ホイールと固定方法が同じなら交換できますか?それとも、パッドも交換が必要なんでしょうか?
みずきちさん
いま使っているホイールで、ローターだけ交換するということで良いのでしょうか?今回の記事の通り、ローターの交換だけならパッドの交換は必要ありません。
ローターには、6つのボルトで固定する方式と、今回のようにセンターロックという方式の2タイプがあります。これはホイールによって決まっています。
お使いのホイールが6ボルト(6穴)であれば6穴用のローターを使う必要があります。
お知りになりたい事は、これで合っていますでしょうか?ご不安な場合は、お店に相談されることをお勧めします。
こんにちは。
ローターを変更するだけだと、ブレーキパッドの位置と合わないので、ホイールを装着できないはずですがいかがでしょうか?
今回はローターの径の変更はありませんので、ホイールが装着出来ないということはありません。
もちろん位置は完全には同じにならないので、コンマ数ミリの単位でキャリパー側の位置を調整することはあると思います。
このフルクラムのレーシング5dbを買おうと思っているのですが、センターロックナットは通常付属のものでは、装着できないのですか?ローターはSM-RT99です。
また、対応しているセンターロックナットは、レーシング5dbに付属しているのでしょうか?
それともシマノのSM-HB20というロックナットを買った方がいいのでしょうか?
Aquaさん
結論から言いますと、外セレーション用のロックナットはレーシング5DBに付属しています。それを使用すればレーシング5DBにSM-RT99を装着可能です。
シマノのローターを買うと内セレーション用のロックナットが付いてきますが、それは当然ながら外セレーションのホイールには使用出来ません。
よろしくお願いします。
はじめまして
ロックリングを外す工具で、内外セレーションの場合はTL-LR11、TL-FC36、モンキーレンチすべてが必要なのでしょうか?
TL-LR11とモンキーの組み合わせか、
もしくはTL-FC36
で外れるということではないのでしょうか?
ちぇれさん
内外セレーションの場合、外セレーションまたは内セレーションの両方の脱着方法に対応しているという方式です。
1、外セレーションを利用:TL-FC36
2、内セレーションを利用:TL-LR11+モンキーレンチ
1の方法または2の方法のどちらかを選ぶということになります。工具もどちらかがあれば大丈夫です。ただし本文にも書きましたが、『内セレーションで使う工具』と『内外セレーションを内セレーションで使う場合の工具』は異なりますので注意が必要です。
ブログの記載は3つの工具が全部必要という書き方になってしまっていました。これでは誤りなので、記載を修正しました。ありがとうございました。
[…] いなどはとてもわかりやすい@morou2さんのBLOG、『自転車&家つくり日記!』をご参照ください。 […]
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まだ10年超のリムブレーキが現役なものの、近い将来ディスクブレーキ仕様完成車を増車検討。ホイールのアップグレードを考えているのでお邪魔しました。
わかりやすく参考になりました。
yama-jogさん
どうもありがとうございました。
参加になったようで、何よりです。私も20年前に買ったリムブレーキのバイク(CannondaleのCAAD3)がまだ現役です。
はじめまして。
はじめまして。ローター交換の参考を探していて貴ブログにたどり着きました。
完成車のディスクローターからRT-MT900に交換しました。
交換前のローターはブログ主さまと同じもので、取り外しは比較的容易にできたのですが、RT-MT900を装着して、ロックリングを締めたあとにパッドに擦れまくったので、ちゃんとはめ込まれてるか再確認しようと、再びロックリングを緩めて、ローターを外そうしたのですが、がっちり収まってしまったのか力を入れても外せない状態になりました。
このような状況にはなりませんでしたか?
はめ込むギザギザもちゃんと合わせていたつもりではあるのですが。
Jさん
私は同様の状態になったことは無いですね…。固くて外れないほどにガッチリ噛み合ってしまっているのであれば、装着する時もある程度の固さがあったと思われます。通常は、装着時には力が一切不要で、ロックリングで固定する前は多少カタカタ動くほどです。
原因としては、たまたまギザギザの一部だけ精度が悪く、嵌め合いが悪かったということ位しか思い浮かびません。いったん力ずくで外していただいて、再度装着する時はあっさりとはまるかどうか?を確認しつつ装着してはどうでしょうか。