【レビュー】サドルが『踏め』と言ってくる… スペシャライズドの3Dプリントサドル『S-WORKS ROMIN EVO MIRROR』

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スペシャライズドの3Dプリントサドル『S-WORKS ROMIN EVO MIRROR』を買いましたので、レビューします。

■総合評価

スペシャライズドの3Dプリントサドルです。55,000円(税込)と高価ですが、価格相応の完成度であり『悩む理由が値段なら買え、買う理由が値段なら止めておけ』を体現する製品です。

  • MIRRORテクノロジーにより、高度なハニカム構造を3Dプリントで実現。
  • ハニカムのメッシュは太さや間隔が非常に細かく調整されており、絶妙な硬さと振動吸収性を実現している
  • ベースはFACTカーボン製で十分な剛性を発揮

■購入動機

これまで使っていたサドルは、prologoの『DIMENSION NDR』。DIMENSIONのパッド増量版です。使用開始は2019年。既に6年が経過したし、PBPも完走できたし、さすがに買い替えたという次第です。

入手当時の記事を見ると座面はツヤ消しなのですが、現在は磨きに磨かれて、テカテカに光り輝いています…。

私の勤務する会社は15年くらい前から3Dプリンターを販売しているのですが、2021年に本製品が出たということで非常に気になっていました。

3Dプリンターは大量生産には向かないことから、その用途は長らく試作品の製造がメインでした。しかしプリンターの性能向上により徐々に最終製品が製造されるようになり、このサドルもその1つ。

性能は明らかに良さそうでしたが、あまりにも高額なため手が出せずにいました。そして2024年7月にショップのレンタル制度(有償で5,000円)を利用して、2週間お試しで使ったところ非常に良い。しかし購入には踏み切れず。

その後に本製品に触発されたためか、いくつものブランドが3Dプリントサドルを販売するようになりました。ショップに展示されている、3Dプリントサドルとしては安価なTNIの製品(それでも24,000円する!)と本製品を比較すると、TNIの3Dプリントサドルは部位によりハニカムの太さを変えることなどはせず、構造が画一的でした。

『なるほど、ここが性能と価格の差なのか』と分かりTNI(やその他の3Dプリントサドル)にも手を出すことはせぬまま、時は経過。

ところが2024年になり、さいたま市が謎の地域通貨『さいコイン』を発行。更に使用額の30%をポイント還元する(還元されるポイントは『たまポン』という、これまたさいたま市でしか使えない独自のポイント)という大盤振る舞いのキャンペーンを開始。いつものショップも『さいコイン』が使えるお店であったため、ここぞとばかりに買ったのでした。

お陰で実質38,000円程度で購入することができました(それでも高いけど…)。

■製品概要

製品概要です。スペックなどをまとめます。

  • 価格:55,000円(税込)
  • サイズ展開:143mm、155mm
  • 公称重量:190g(143mm)、198g(155mm)
  • SWAT対応マウント付
  • レール:FACTカーボン

高額なサドルながら、座骨の幅に合わせて2種類から選択できることがポイント。もしショップにレンタル制度があれば、私のように利用するのが良いと思います。この金額のサドルをいきなり買うのは、中々ハードルが高いですよね。

重量は143mmで公称190g。見た目はスカスカで軽そうですが、ロングノーズのサドルということもあって特に軽量サドルというわけではありません。が、ロングノーズの中では軽量な部類に入ります。

またスペシャライズドによるとパッドの素材は『液状ポリマー』とされていますが、商品サイトには『オキシベンゾン(Oxybenzone)およびホモサレート(Homosalate)を含む日焼け止め、シャモアクリーム等を使用しないでください。これらの化学物質は3Dプリントに使用されるポリウレタンと反応し、サドルの形状が崩れる恐れがあります。』との記載があり、ポリウレタンが使用されていることが分かります。ちなみにアソスのシャモアクリームにはこれらの化学物質は使用されていないため、問題なく使用可能とのこと。

■レビュー

外観

まずは外観から。箱は蓋がなく、むき出しの状態で鎮座しています。

全景です。このサドルのベースモデルは『ROMIN EVO』(2025年3月現在では現行モデル)ですが、同様のロングノーズシルエットです。

座面には適度な凹凸があり、通気性を高める穴も開いています。ベースはカーボンで、その上にハニカムのパッドが乗るという構造です。

サイド部分です。ハニカムが幾重にも重なり、大きさや太さがそれぞれ異なるのが分かります。3Dプリンターならこれを出力できるのは分かりますが、これを設計するのが超絶面倒なはずです。

中央部は細めのハニカムで」非常に柔らかく、前傾姿勢を妨げません。

裏側です。一応『穴開きサドル』に分類されるのでしょうか。中央部にハニカムが見えますが、かなり太くなっていることが分かります。

サドルレールもしっかりとFACTカーボンです。

後端部にはSWAT対応マウントが備わっています。

SWAT対応マウントとは

スペシャライズド独自のシステムで、サドル後端部にネジが切ってあり、対応するマウントを介してボトルケージなど色々なものを取り付けることができる。ちなみに『SWAT』とはStrage、Water、Air、Toolsの頭文字らしい。

フロントのレール接合部は独特の形状をしています。

上記画像の通り先端裏側に平坦部が無いので、バイクラックに掛けると非常に不安定です。出し入れの際にぶつかると、ラックから落ちます。また接合部にダメージがありそうで、この手のラックはあまり使いたくありません。

実測重量

公称190gのところ、195gでした。多数のハニカムから成り立つ構造なので、プリントの際の微妙な誤差が出やすいと思われます。

実走レビュー

それでは実走です。

まずはサドルの取り付け。角度は私の好みである『ほんのわずかに前上がり』にセット。前傾は取りたいが、腰は前に出したくないためです。前後位置の調節幅は少な目ですが、やや前にセット。

さて荒川CRまで出たのち、北風の中を北上します。座ってまず感じるのは『座骨部分の違和感のなさ』

座骨が当たる部分がしっかりと変形していることが分かります。BROOKSなどの全体がしなる革サドルとは異なり、3Dプリントらしく『座骨が当たる部分だけ』ピンポイントで変形しています。

かと言って剛性が低いかというとそうではなく、パッド自体にある程度の反発力があるうえ、シッティングで踏み込んでもカーボンベースのおかげで『しっかりとした底』があり、グイグイと踏み込めます。

それでいて割れたアスファルトを通過する時のような細かい振動は、メッシュ構造が大部分をカットしてくれるという特性も持ち合わせています。これは3Dプリンターの特性を活かしたとても良いサドルですよ!

まとめると

  • 座骨部分はしっかりと変形して不快さは一切ない
  • 踏み込むと部位に応じてパッドが最小限に変形する
  • ベースはカーボンなので『底』がしっかりある
  • 路面からの細かい振動は吸収してしまう

というかなり理想的な性能です。一言で表現すると『尻に吸い付くようなサドル』。

多少の荒れた路面でも非常に安定してペダリングができるので、これまでのように休むヒマがありません。私はブルべでだいたい10分おきに用も無くダンシングを入れて尻や股間の血流を定期的に回復させているのですが、それを忘れてしまいます。

振動吸収性能が高いのでこれまでのDIMENSION NDRと同じ頻度でダンシングを入れる必要は無いと思われますが、とにかく骨盤が安定してパワフルにペダリングができるので、サドルから『もっと踏め』と言われているように感じます…(ワイズロードのレビューでも同様の感想がありました)。

また中央部の柔軟性が非常に高いため、前傾しても股間が痺れないこと、前後に長いためポジションの調整幅が広いことも特徴です。この辺は人によって使い方がかなり異なると思いますので、参考まで。

欠点としてはとにかく高額なことと、前述のように特定の化学物質を含むクリームは、素材のポリウレタンへの攻撃性があるため使うことができません。またサドルレールが縦長楕円形(7×9)のため、7mmラウンドレール用のサイドクランプタイプのシートポストは使用不可という制約があります。

■まとめ

スペシャライズドが2021年9月に発売した3Dプリントサドルです。

3Dプリントならではの特徴を生かし、ハニカムを構成するラインを非常に細かく調整することで振動吸収性をなめらかに変化させ、これまでに無い吸い付くようなしなやかさを実現しています。これは設計に恐ろしいほどの手間をかけていることを意味しています。

単に快適なだけではなく、荒れた路面でも骨盤が安定します。それはペダルに安定してパワーをかけられることを意味していますので、速度の向上にも寄与するはずです。

価格は安易に購入をためらうほど高額ですが相応のメリットがあり、安価な3Dプリントサドルとは一線を画す性能を持っていると思われます。

早速200kmのブルべで使ってみましたが、性能としては何の不満もなく(ついつい、長く座り過ぎてしまうことが唯一の不満)、600kmに投入するのが楽しみな状況です。

次はたまポン30%還元キャンペーンが無かったら購入していたであろう、TNIの3Dプリントサドルをあえて買ってみて比較したいと思っています。どちらかが絶対的に良い/悪いということは無く、価格相応のメリットの有無が重要と思っていますので、その辺りを比較して伝えることができればと考えています。

個人的にはサドルへの(30%が戻ってくるとはいえ)55,000円の投資はかなり思い切ったものでしたが、3Dプリントの特性を活かした非常に良い製品です。設計データの作成は死ぬほど大変なはずですが、このような製品が世の中に増えてくると良いと思います。

高額ですが、気になっている方は試してみることをお勧めします。

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ABOUT ME
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当サイトは自転車関連のパーツレビュー、ブルべの走行記録を中心としたブログです。
管理人は40代のロードバイク乗り。20年前にCannondaleのCAAD3を買って以来、Cannoncdaleばかり乗り継いでいます。 昔はメッセンジャーやレース、今はロングライドとブルベ中心。2022年エベレスティング達成、2023年PBP認定、2024年キャノボ達成。ブルべの主担当もやります。
年間走行距離は約10,000km。身長170cm、体重57kg。
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