新型デュラエースの発売はいつなのか?シマノの有価証券報告書から推理する

期待されている新型デュラエース(型番はR9200らしい)ですが、100周年サイトオープンのタイミングでは発表されませんでした。それでは発表は一体いつなのか?が気になるところですが、今回は『実際にデリバリーされるのはいつなのか?』を勝手に推理してみたいと思います。ネタは有価証券報告書です。
※2021/03/31:本日掲示された有価証券報告書の記述を反映した内容に修正しました。

■発表とデリバリーのタイムラグ

現行のR9100の時もそうだったのですが、まず製品の発表から実際にデリバリーされるまでには数か月のタイムラグがあります。最近は『発表と同時に発売』というパターンのブランドもあるのですが、シマノの場合は販売量の桁が違いますので、難しいのではないかと考えられます。

まず製品の発表時期ですが、既に海外では販売店などに概要が説明されているようです。そのため、いつ発表されても特に不思議ではない状況です。

今回のラインナップは、ブレーキはリムと油圧ディスクの2種類、変速はセミワイヤレスの1種類のみになるようです。R9100の時は、シンプルな『リムブレーキ/機械式変速』からデリバリーが始まりました。Di2や油圧は後回し。パワーメーター内蔵モデルは更に後回しだったと記憶しています。

このように、発表からデリバリーまではタイムラグがあるのが通常だということを頭に入れておきます。それと今回影響してくるのが世界的な納期遅延問題。コロナによる自転車の需要増でパーツの在庫が無くなってしまい、年末あたりは大変な状況だったようです。重要顧客の完成車メーカーにも卸せないため、完成車のデリバリーも遅れてしまう始末です。

そのため、大量のバックオーダーを抱え完成車メーカーに迷惑をかけている状況を解消するのが先か、もしくは新型デュラエースを製造するのが先か、会社としてどちらを優先するのか決定しなくてはなりません。もちろん優先されるのは『儲かる方』であることは、言うまでもありません。

■2020年の通期業績おさらい

シマノの決算期は12月です。そのため通期の決算短信が2月に発表されていますので、まずは決算短信の内容からシマノの2020年12月期の業績を確認しておきます。
※決算短信は東証の規則により作成している書類なので、内容がシンプルなため発表されるのが早いです。似たような書類で有価証券報告書がありますが、こちらは『金融商品取引法』という法律に基づいて作成されるため多数のお作法があり、作成および提出に時間がかかります。
※有価証券報告書も2021/03/31に発表されました

2020年12月期の通期業績(売上)

売上(百万円) 前年比(%)
自転車 297,777 2.7
釣具 79,907 9.7
その他 356 0.8
合計 378,040 4.1

2020年12月期の通期業績(営業利益)

営業利益(百万円) 前年比(%)
自転車 68,494 18.4
釣具 14,264 39.6
その他 -57
合計 82,701 21.6

売上は前年比4.1%増、営業利益は前年比21.6%増でした。営業利益の伸びがすごいですが、売上は納期遅延により利益ほどは伸びませんでした。利益が伸びた要因は、普及価格帯の製品が計画を上回って売れたことで量産効果が出て、原価率が下がったからだそうです。

ちなみにちょうど1年前の有価証券報告書では、2020年の業績見通し(予想のことを見通しと言います)が売上で372,000でしたので、概ね想定通りの着地です。売上面では世界的な需要増をこなし切れず、やや残念な結果となりました。

このことは決算短信にも『旺盛な需要に供給が追いつかない状況』と記載されています。釣具セグメントに関しては在庫ひっ迫の状況にならなかったようで、素晴らしい営業利益の伸長ぶりです。しかし自転車セグメントとは規模が3倍以上違いますので、全社業績をけん引するには至りませんでした。

■2021年12月期の業績見通し

次に、昨年の業績を踏まえて今期の業績見通しを確認します。業績見通しとは、『今期はこれだけの売上、利益にします』と会社側が自分で算定した数字のことです。会社が自分で算定して投資家向けに発表していますので、この数字を達成出来なかったら多くの場合は株価が下落することになります。

このように見通しは株価と密接に関連していますので、非常に合理的な算定根拠が求められます。その上、発表した見通しから売上で10%、各段階の利益で30%の上下のブレが生じることが分かった場合、修正が生じることを開示しなければいけません。このように『業績見通し』は、非常に重い位置づけであることを踏まえて見ていきます。

売上(百万円) 前年比(%)
自転車(国内) 6,700
自転車(海外) 363,300
自転車小計 370,000 24.3
釣具 85,000 6.4
その他 500 40.4
合計 455,500 20.5

まず目に付くのが、全体で売上を約20%も伸ばすと言っている点。昨年の売上は4%の成長だったのに、です。では、その約20%の成長は一体どこで達成するのか。ほとんどを自転車セグメントで稼ぐと言っています。前年の成長率はわずか2.7%だったのですが、今年は約24%も成長させるそうです。逆に釣具セグメントの成長率は9.7⇒6.4と3.3Pのダウンの見込みとなっています。

昨年はシマノ全体で3,780億円の売上でしたが、今年は自転車セグメントだけで3,700億円の売上をやると。非常に強気ですが、合理的に見積もった結果、このようになると言っているのです。

ちなみに自転車セグメントの国内/海外比率ですが、国内の数字がたったの67億円しかありません。これは『シマノの顧客は誰なのか?』ということが現れています。パーツを使うのは我々一般ユーザーですが、シマノの顧客はユーザーではないのです。

では誰なのか?と言うと、それは完成車の製造メーカーでしょう。有価証券報告書には地域別の売上高(自転車も釣具も一緒の実績)も載っていますが、実に39.3%が欧州。そして33.8%がアジア。他は日本(11.9%)、北米(10.5%)となっています。

釣具も一緒の実績となっているのですが、まずアジア向けはGIANTを始めとする台湾の完成車メーカー(OEMも含む)ではないでしょうか。次に最も大きな欧州ですが、欧州ブランドもアジアで製造委託しているはずです。それでもこの数字の大きさは、フレームだけはアジアで製造するがコンポは欧州で調達して組付けしている、又は欧州内(東欧とか)でもそれなりにフレームが製造されているかでないと説明がつかない数字の大きさです。それに加えてパーツの需要もかなりあるということでしょう。

■2021年のシマノの戦略

昨年はコロナで自転車需要が旺盛だったのに、売上の成長率は4%でした。にも関わらず、どうやって20%も売上を伸ばすつもりなのでしょうか。

上半期

まずシマノが取り組まねばならないのは、抱えているバックオーダーの解消です。作れば作るだけ売れたはずなのですが、生産能力が追い付かなかったために販売機会を逃してしまった。これが2020年です。2021年はデュラエースの発表すら無い状態で既に1Qが終わろうとしていますので、これに全力で取り組んでいるはずです。完成車メーカーもシマノからコンポが入ってこないせいで完成車を売ることが出来ず、シマノとしては迷惑をかけているはずですからね。

2021年の上半期は、この課題に全力で取り組めば前年比で20%増の売上は達成出来るのではないでしょうか。実際に、先ほどの自転車セグメントの見通しである3,700億のうち、52%にあたる1950億を上半期で稼ぐ計画になっています。

この裏付けになりそうな記載が、2019年12月期の有価証券報告書にあります。これが提出されたのは2020年3月ですが、ここに『重要な設備の新設等』という項目があります。ここを見ますと、以下のような工場への設備投資を行っています。

シマノの生産設備増強

  • 本社工場:製造設備、ソフトウェア  投資予定額:58億円
  • 下関工場:製造設備、ソフトウェア  投資予定額:12億円
  • シンガポール工場:製造設備、ソフトウェア、工場建替  投資予定額:206億円
  • マレーシア工場:製造設備、ソフトウェア  投資予定額:10億円
  • チェコ工場:製造設備、ソフトウェア  投資予定額:10億円

各地の工場への設備投資は毎年のように100億円規模で行っているのですが、2018年8月に建設着手したシンガポール工場の建て替え工事が2020年12月に完了する2021年11月に延びたという事、チェコ工場への投資が行われたというのがのトピックスです。
※有価証券報告書の記載から、シンガポール工場の工事完了が2021年11月に延びていることが分かりました。

約2年半と200億の費用をかけて行っていたシンガポール工場の建替が完了するということで、大幅な生産能力の向上が見込めるのではないでしょうか。約1年も工事完了が延長されました。1つの工場に200億を投資すると言うのはシマノとしてはかなりの大型投資です。ですが約1年も完了が遅れて大丈夫なのか…。

ちなみにデュラエース向けの設備投資はあまり必要無いのでは?と考えています。リアの12速化やチェーンリングのダイレクトマウント化も、MTBでは既にデオーレまで展開されているからです。ロード的には新しいのですが、世界的にもシマノ的にも目新しさはあまりありません。

下半期

バックオーダーの解消に上半期の半年かけて取り組み、納期が落ち着いてきた2021年の9月あたりにようやく新型デュラエースのデリバリーが一部始まるのではないでしょうか。10月以降の4Qになって、GIANTやピナレロなどの完成車メーカー、ブランド向けにまとめて出荷されるようになり、ようやくデュラエースが業績に貢献するようになるわけです。

それでもデュラエース一式の卸価格は20万円くらいと予想しますので、それを10万セット販売してやっと200億円。コロナで物流もスムーズでない中で、仮に10万セット製造出来たとしてもそんなにデリバリー出来るのか?疑問なところもあります。

売上20%増を実現するには、既存製品の生産能力増加とスムーズなデリバリーを下半期も引き続き徹底すべきであり、デュラエースの優先順位はあまり高くないというのが予想です。

ただ、もしかするとXTRあたりの生産を抑えて、既にデュラエースは絶賛生産中という可能性もあります。5月あたりに突如発表があって、発表の翌日にデリバリー!という可能性も捨てきれません。何しろ既に12速化を果たしているXTRの発売は2018年です。ロードでいうと105に相当するデオーレですら12速になっているので、12速のコンポを作る事自体は何年も前からやっているんですよね。デュラエースなんていつでも製造できる位の事は言って欲しい。

■まとめ

前年比で20%成長すると全世界に向けて見通しを立てているシマノ。足元では納期遅延が続いているにも関わらずこのような見通しを立てるという事は、納期の状況は改善される見通しがついている…ということが推定されます。この業績見通しを達成するためにも、当分は納期改善に全力で取り組むはずです。

ロード乗りはデュラエースはまだかと心待ちにしていますが(私もですが)、シマノとしてはやることが他にも沢山あるのです。北米ではMTBに加えてグラベル(GRX)が売れているし、欧州ではe-bikeユニットのSTEPSが売れているのです。

自転車業界はロードバイクだけで成り立っている訳ではないので、シマノとして業績見通しを達成するにはいくつも方策を用意して、それらを着実に達成していく必要があります。『ロードバイク』の『デュラエース』は数ある製品の中の1つに過ぎません。

もしかすると、この4月にも突如発表になり、その翌日からデリバリー開始というシナリオもあるかもしれません。しかしシマノを取り巻く現状と、決算報告資料を見る限りでは、新型デュラエースの優先順位は低いと言わざるを得ないと思います。

最後に2021年2月に決算短信を発表した時、日経新聞の取材に答えた社長のコメントがこちら。『2021年の前半は顧客の要望にフル生産で対応する。後半は新製品投入による増収も見込んでいる』だそうです(答えが書いてありますね)。
※2021/03/31追記:この時点でシンガポール工場の工事完了が遅れていることなど分かっているはず。それでも前述の業績見通しを出しているのです。頼もしいですね。

個人的には良い意味で裏切られるように発表とデリバリー開始を楽しみに待ちたいと思います。私もデュラエースは買うつもりなので…。まずは発表をしてくださいシマノさん。セミワイヤレスになって、エアロハンドルの組付けとか、SRAM並みに楽になって欲しいですよね~。

リムブレーキは残るみたいなので、まだ進化してくれることになり嬉しいですね。他は105とかでも、ブレーキだけはデュラエース。