ロードのチューブレスは『使える』のか?1年半使って分かったチューブレスのメリット/デメリット
さて2019年の12月にロードバイクのタイヤをチューブレス化して、早くも1年半が経ちました。これまでに使ったチューブレスタイヤは5銘柄(ヴィットリア コルサ、GP5000、シュワルベ ワン/プロワン、IRC)。色々経験しましたので、チューブレス化を検討している人のためにチューブレスのメリット/デメリットをまとめてみます。
■1年半使って分かったこと
2019年の12月にヴィットリア コルサチューブレスを使い始めて、1年半が経ちました。現状では、チューブレスのシステムは普通に『使える』レベルに達していると思います。使う前に不安だったこともいくつかありましたが、対処する方法はあります。
メディアの発信する情報はメリットばかりなので、トラブルに関する情報がありません。そこが重要なのですが、トラブル時の情報が少ないがために導入に不安になってしまう面が大きいので、その辺の情報は今後も発信していきます。
クリンチャーと比較するとメリットも大きいですが、残念ながらクリンチャーほど手軽ではないのが事実。自分の重視するものは何か?良く考えてから乗り換えることが重要です。私も使い続けることが出来るのか不安でしたが、今のところ問題無く使えていますし、ブルベにも出ます。
更に『ENVE45』なんていうチューブレスしか使えないホイールも買ってしまいましたし…。フックレスのホイールなんて買うのは私くらいと思っていましたが、ZIPPの303Sは意外と見かけます。少数派であることは確かですが、思ったよりもチューブレスを使う人がいる様子です。
最初の導入ハードルは高いですが、そこを越えるとチューブレスならではの乗り味を体験することが出来ます。導入にあたってのメリット、デメリットを以下にまとめますので、参考にしてください。人間は『損をしたくない』生き物ですから、デメリットの方が目に付いてしまいます。しかしデメリットについては対応する方法があります。そこも併せて紹介しますので、判断材料にしてください。
■チューブレスタイヤのメリット
走行性能が高い
チューブレスタイヤのメリットは、とにかくこの『走行性能が高い』点に尽きます。クリンチャーにも良いタイヤ、チューブが沢山ありますが、そもそもシステムが異なりますから越えられない壁があるように思います。
そもそもロード乗りにとって、『走行性能が高いかどうか』は最重要な基準ではないでしょうか?ブルベに関してはトラブルに強いことが重視されますが、それでもある程度のトラブルに対処できるのであれば、走行性能が高いタイヤシステムを選ぶ人が多いでしょう(そもそも日常の管理をしっかりやっていれば、トラブルはある程度は防げます)。
その走りの良さについてですが、まずチューブが無いため転がり抵抗が低い。タイヤも適度に変形するので、振動吸収性が良く疲れない。路面追従性の高さからパワーロスも少ない。荒れた舗装でもタイヤが跳ねることが無いため、安定して踏み続けることが可能。
クリンチャーであればタイヤがバウンドして宙に浮いている場面でも、チューブレスならタイヤが接地しているので、その間も進み続けることが出来ます。下りの最中に舗装が荒れた箇所が出てくるとバイクが跳ねて怖い思いをすることがあると思いますが、そういった場面も減らすことが出来ます。
ちなみに、私もたまに『クリンチャーに戻そうか…』という考えが頭をよぎることがあります。しかし、クリンチャータイヤの固い乗り味を思い出すと、引き続きチューブレスを使おうと思ってしまうのです。
パンクしづらい
段差や舗装の穴に突っ込んでも、リム打ちのパンクが起こりません。チューブが無いので当たり前のことですが、かなり有難いです。パンクしづらいだけでなく、タイヤが段差で上手い具合に『バコン』と変形して何事も無く乗り越えてくれるので、バランスを崩すこともありません。これはクリンチャーにはない感覚です。
また仮に何かを踏んでパンクしたとしても、クリンチャーの様に一気に空気が抜けることがありません。シーラントが穴を塞いでくれるので基本的にスローパンクになります。運が良ければパンクに気が付かない事すらあります。
チューブが無いので低圧に出来る
話の順が前後するのですが、『走行性能が高い』『パンクしない』のは、全てチューブが無いことによるものです。チューブが無いと何が良いのかと言うと、低圧で運用が可能になります。
クリンチャーが7とか8barという高圧まで入れていたのは、転がり抵抗を減らす意図もありますが、単純に低圧にすると簡単にリム打ちパンクしてしまうからだった、という事が分かりました。低圧にしたくても、出来なかったんですね。
チューブレスにしたからと言って必ず低圧で運用する必要もありませんが、高圧が好きな人はチューブレスでも高圧(5barくらいで十分に高圧です)にすれば良いだけの話です。
チューブの管理から解放される
意外なメリットとして、チューブを買わなくて済むようになります(当たり前ですが)。これまでは常にチューブの在庫を気にしていました。ホイールのリムハイトによって必要なバルブの長さが違いますから、バルブ長別に何本もチューブが…(バルブエクステンダーで対応する方法もありますが、それはそれでトラブルになるので私はやめました)。
またツールボトルの中にチューブを無造作に入れておくと携帯工具と接触して穴が開くこともあるので、ラップで包んでおいたり。そういった運用から解放されます。パンク時のためにチューブも携行していたのですが、今はそれもやっていません。
チューブの携行に関しては『パンク時に実際にチューブを入れた人を見たことが無い』ため懐疑的だったのですが、TLでこの話題を振ると意外と実践した人がいました。私もタイヤ交換の際に試しにチューブを入れてみましたが、何と入れる事が出来ませんでした。ビードが固すぎます。タイヤを装着するだけでも大変なのに、チューブが入るはずが無い、という感じです。
ここはリムとタイヤの相性にもよるところがあります。ヴィットリアのコルサなんかは楽勝でタイヤがハマってしまう(その代わりビードを上げるのが大変)ので、チューブを入れるのも簡単だと思います。
メリットとしてはこの3つでしょうか。数としては少ないですが、この『走行性能が高いかどうか』という点がロードバイクにとってはまず重要ですよね。ブルベにおいてはトラブル耐性が重視されますが、世間一般においてはまず走行性能でしょう。
そしてその『走行性能の高さ』を入手するために生じるデメリットが以下の通りとなります。
■チューブレスのデメリット
チューブレス導入前を思い返してみると、デメリットはそのまま私が導入前に不安だったことでもありました。
- タイヤの取り付けが大変そう
- パンクした場合、シーラントは本当に役に立つのか
どちらも意外と何とかなりましたが、特にパンク時の対処についてはロング勢にとって悩ましいところがありますね。
タイヤの取り付けが大変である
この問題は、タイヤとホイールのそれぞれの大きさにバラつきがあること(これが『相性』と呼ばれます)に起因します。
このタイヤとホイールの相性問題は着実に改善されて、かなりマシにはなったのだと思います。ただし未だにバラツキがあるのは確かです。クリンチャーやチューブラーでもバラつきはありますが、チューブレスの場合はこの精度がより重要になります。
コンチネンタルのGP5000やIRCのフォーミュラプロのように気密性重視のキツいタイヤの場合は、気合でハメるしかありません。逆にヴィットリアなどは緩くて簡単にハマるのですが、その場合は気密性が低くビードが上がらないという現象が発生します。このバランスが重要なんですね。
装着時にキツいタイヤは、装着後もガッチリとタイヤに嵌っているためビード上げも大変です。その場合は、摩擦を減らすために石鹸水なども使ってあげましょう。逆に簡単にハマってしまうタイヤの場合は、チューブレステープを追加で巻くことで気密性を高める必要があります。
この点については走行中にどうこうする問題ではなく、自宅でじっくり時間を使って対応が可能なタイプの問題です。そのためタイヤが装着出来てしまえば、その後は特に問題ではありません。メンテを苦労と感じない人は問題にも感じないでしょう。
ただし出先でのパンク時の対処方法として『チューブを入れる』を選択した場合は、外したビードをハメるのに苦労するかもしれません。そのためチューブレスにおけるパンク対処法としては、なるべくタイヤを外さずに何とかするのが基本になると考えています。
定期的なシーラントの補充が必要
気密性の維持とパンク時の対処のためにシーラントを入れますが、定期的な補充が必要です。理由として、ラテックスなどの成分がタイヤの裏側、リムとビードの接触面に蓄積していき、パンク時に使用される『流動シーラント』が無くなっていくからです。
上記の記事にもありますが、3ヶ月ほど経過すると残っているのは水分のみになっています。シーラントに含まれるラテックスなどの成分がタイヤ裏側とリムとビードの間に溜まっていき、気密性はどんどん高まるのですが、パンク時のリペア効果は薄れていきます。ただしこれはラテックスを使用しているスタンズのシーラントの話なので、ラテックスを使用していない他ブランド(フィニッシュラインなど)はもっと寿命が長くなると思います。
注ぎ足しせずに放置するとパンクした時にシーラントに塞いでもらえなくなるのですが、リスクはパンクの頻度によります。タイヤの消耗が早い人は半年程度でタイヤを交換することになると思いますので、いずれにしてもその際にシーラントも交換されます。実際はそれほど面倒ではないというのが感想です。
パンクした場合、完全に復旧出来ない
これが最も大きい要素です。穴が小さければシーラントがふさいでくれますが、あくまでも応急措置である点は忘れないようにする必要があります。また塞がった後に空気圧をあまり高圧にしてしまうと、シーラントの膜が破れて空気がもれてしまうことがあります。経験上、4bar程度であれば問題ないケースが多いので、体重が大きい人(90kgとか)の場合に多少問題になるくらいでしょうか。4barあれば普通に走れますから、もしブルベ中にパンクしたとしてもそのまま続行するつもりでいます。
シーラントでは塞げない大きな傷の場合は、以下の対応が必要になります。
- プラグを使って穴を塞ぐ
- チューブを入れる
- パンク修理材を注入
プラグはMTBなどでは一般的で、色々な商品が販売されています。こんなやつですね。私はこのレザインをツールボトルに入れています。
チューブレスはなるべくタイヤを外さないと先ほど書きましたが、出先でタイヤをハメること、シーラントを掃除することが苦にならなければチューブを入れるのもありでしょう。私もIRCのチューブレス用タイヤレバーは(一応)持ち歩いています。シーラントは、ボトルの水やコンビニが近くにあれば買って洗い流すか、携行しているウェットティッシュで拭く想定です。昔の23C時代のチューブレスでも、チューブを入れて空気圧を上げればビードは上がったという人もいました。
ちなみにシーラントが入っている状態でタイヤを外すとどうなるのか?は先ほどの記事にまとめました。パンク時にチューブを入れる時は必須の作業ですが、タイヤの中がどうなっているのか?の情報が少なかったのは不安要素の1つでした。
パンク修理材というのは、IRCのファストリスポーンですね。レビューを見ると割と使えるみたいなので、一度試してみたいところ。でもパンクしないので、試す機会が無い…。
このように、パンク時の対処方法は色々あります。クリンチャーのようにチューブを交換したら『はい、元通り』とはいきませんが、スプリントとかしなければ大丈夫な程度には直ります。
ただしシーラントの膜はいつ破損するか分かりませんし、パンクしたタイヤ自体の修理は難しいので、帰宅したらタイヤ交換になる…というのがコスト的に辛いですね。ジャイアントからはチューブレス用のパッチが出ていますが、ジャイアント以外にはこの手の製品をあまり見かけないところを見ると修理が難しいのだろうと思います。タイヤの裏側は、シーラントが蓄積してしまってますからね。
■まとめ
興味があれば使ってみて欲しい
現時点ではチューブレスのデメリットもかなり改善されてきているので、十分に『使える』タイヤシステムだと思います。ただしクリンチャーのようなお手軽さは無いことは確かなので、デメリットを考慮したうえで、対処できる人にはどんどん使ってみて欲しいところ。
ブルベのようなロングライドだと耐トラブル性が重視されますが、シーラントやプラグを使っても対応出来なければ潔くDNFするつもりで使っています。休みを調整して、やっと出走した1200kmのブルベの最初の50kmでいきなり直せないパンクが発生したとしたら…潔くDNF出来るか分かりませんが、そんな可能性の低い事象を心配しても仕方ありません。
選択肢は多くあるべき
また、タイヤの性能は転がり抵抗の低さだけで決まるわけではありません。試験機の上での測定結果が数値化されているのでどうしても評価に引っ張られてしまいがちですが、転がり抵抗の低さ=速さになるのは平滑な路面の場合。現実の路面は荒れていることも多いので、そのような状況ではチューブレスのような路面追従性の高いタイヤシステムが適していると思います。
どの状況での性能を重視するかは、その人それぞれ。荒れた路面でどんなにタイヤが跳ねようが関係ない、ロードらしい軽快さを重視でカンカンなクリンチャーが好きという人もいれば、平らな路面でも荒れた路面でも一定トルクでペダリングしたいという私のような人もいます。
ロードはどうしてもレースを基準とした『ロードバイクはかくあるべき』みたいな価値観がありますが、実際はもっと選択肢があって良いと思うのです。あえてブルベでチューブレスを使い続けているのも、使いようによっては十分に選択肢になるということを伝えたいためです。
重要なのは『そこに選択肢があるかどうか』ということです。性能の良いタイヤシステムが、『情報が少なくて判断できない』とか『ロングライド向きではない』とか『あの人が使っていないから』などの理由で一律にダメ判定されて埋もれて欲しくはありません。あくまでも皆さんが自分自身で情報を得て、使うかどうかをジャッジして欲しい。
とにかくタイヤのしなやかさによる路面追従性と振動吸収性はクリンチャーには無いものです。食わず嫌いせずに、上手に使いこなして楽しみましょう。
チューブレスのデメリットは「リムテープに気を遣う」ですかね。
気密性(巻き方)、巻き数(厚み)、重量増、どれをとっても
ネガティブな印象しかありません。
筆者も苦労されたようですが、個人的にはスポークホールのない
カンパ、マヴィック等が優位ではないかと思っています。
読者さん
確かにチューブレステープ(リムテープ)は苦労する点ですね。
タイヤ交換のたびに実施するわけですが、あの作業が無かったらどれだけ楽か…。
カンパ系のように基本的にテープ不要なブランドもあること、私がそれらを使ったことが無かったので
今回は触れませんでした。
そのため、次回のホイールはカンパ、MAVICあたりにしたいと思っていたりします。
(この後のコメントの件、承知しました)
個人的には
飛行機輪行のときの煩わしさが
最大の障壁です。
匿名さん
確かに飛行機輪行はシーラントがNGですね。
事前に抜いた状態で輪行し、現地でシーラントを購入するか、宿にシーラントを事前に送っておく必要がありますね。シーラントが入っているかどうか、荷物の預入時にはチェックのしようがないという意見もありますが…。その意味では、Di2の内蔵バッテリーも同様ですね。
チューブレスタイヤのパンク修理って、普通に裏からゴムのパッチを貼る。ではダメなのでしょうか。
たそがれローディーさん
チューブレスレディの場合はシーラントを使用しますが、シーラントの成分がタイヤ裏に薄く蓄積して貼り付きます。この薄く蓄積したシーラントのせいで、パッチ修理が非常に難しいものとなっています。