【レビュー/インプレ】MAVIC COSMIC SLR 32 DISC(コスミックSLR32ディスク)
MAVICのカーボンホイール『COSMIC SLR32 DISC』を買って2ヶ月/1,500kmほど使用しました。ホイールの紹介と、現時点での感想を記事にします。
■購入動機
購入は2022/06/11。私が主担当であった、たまがわの『BRM611大洗銚子300』の開催日です。その運営の合間に引き取ってきました。611は各地で300kmブルべが100周年記念として開催されていましたね。いつものショップに開店時間に立ち寄り、お金を払うとホイールを裸で2本渡されて終わりです。
毎週のように顔を出しているので、こういう時は短時間で済むのでありがたい。翌日のエベレスティングの準備も並行して行っていましたし。
PBP用の軽量ホイール
さてこのホイールを購入した目的ですが、来年(2023年)に開催されるPBPで使うホイールとして買いました。これまで使っていたENVE45はフックレスリムなので、チューブレス専用です。
チューブレスはパンクしづらいですが、いったんパンクすると完全な復帰が難しいという特徴があります。一方クリンチャーは、チューブを交換すれば元通りです。
先日の日本橋1000のように、勝手の分かっている国内であればパンクしても300kmくらいは時間内に走ることが出来ます。しかし海外だとそうもいかない。そのためクリンチャーで走った方がPBPの完走確率は高まるだろうと判断し、クリンチャーも使えるフックドリムのホイールを調達することに。
またPBPのコースの特徴としてアップダウンが多いことが挙げられます。体重が軽量級な自分(身長170cm、体重57kg)には軽量なホイールの方がメリットが多い。そのためリムハイトの低いホイールを対象にします。
ホールレスリム
次の条件はホールレスのリムであること。チューブレスシステム自体は好きなのですが、いくつかあるネガティブ面の中でも大きなものが、チューブレステープの施工。
フックレスであるENVE45のリム形状は非常に複雑で、テープを巻くのに非常にスキルを要求されました。
フックレスのリムでなければテープの施工はそれほど大変ではないのですが、それでもタイヤ交換のたびにテープ交換が必要になりますから、心理的な負担が非常に大きかったのです。
一方で、カンパやフルクラム、MAVICのようなメジャーなブランドからホールレスのホイールが普通に出ていますから、それらのリムを使ったホイールを一度は使ってみようと思った次第です。
これでチューブレスでも、気軽にタイヤ交換が出来るようになります。テープに起因するトラブルもなくなりますし、軽量化にも貢献します。良いことづくめです。
内幅21mm以上
次はリムの内幅が21mm以上であること。ENVE45のリム内幅も、同じく21mmでした。これは28Cのタイヤの装着を前提としているためで、使った限りでは28Cタイヤを使いたいなら21mm以上のリムが適していると思います。リムとタイヤがツライチになるんですよね。19mmのリムだと、少しですが安定感に劣る印象です。
リムについては、技術の進歩によってより幅広のリムをより軽量に作れるようになってきていますね。重量が増えないのであれば、幅広リムの方がメリットが多いと思います。
総合するとSLR32だった
以上の条件を総合すると、あてはまるのがMAVICのSLR32という結論になりました。カンパ、フルクラムもホールレスですが、内幅が19mmです。フルクラムのSPEED25は内幅21mmですが、今回の検討時点ではまだリリース前でした。
個人的に、MAVICはチューブレスに関して自社ブランドのタイヤ装着を大前提としているイメージがあり、それが理由で敬遠していました。今回は条件を満たすのがMAVICのみでしたから、いったん食わず嫌いはやめてMAVICユーザーになってみようと思います。
値上がり前の駆け込み
このホイールの購入動機は、PBPであることは間違いありません。しかし、値上がりのタイミングやエベレスティングの実行日がたまたま重なって、結果的にエベレスティングをこのホイールで走ろうということになりました。
究極のヒルクラチャレンジであるエベレスティングでは、当然ながら『可能な限り軽量ホイールで走りたい』というニーズがあるはずです。SLR32は有力(というか唯一)な候補であったものの、なにせ27万円もしますので、エベレスティングの実行日が迫りつつも、高額な支払を行う決心がつかずにいました。
しかし唐突に、2022年7月からMAVICホイールが値上がりするというアナウンスがあり慌てて6月に買うことになります。ショップには店頭在庫として旧価格で仕入れた分がありましたので、すぐに値上がりするわけではありません。
それでも買ったのは何故かと言うと、店頭在庫は1セットしか無かったため、他の誰かに買われてしまうと値上がり後の新価格で発注せざるを得なかったためです。そのためブルべ運営の合間を縫って購入したのでした。ちなみに値上がり幅は、定価ベースで旧:286,000円⇒新:297,000円となります(価格は税込)。
■製品概要
コスミックSLRファミリーについて
今回購入したホイールは『COSMIC SLR32 DISC』です。MAVICは、シマノのように場当たり的に追加してきたラインナップを2022年に(恐らく経営危機により)整理し、カーボンホイールに注力するラインナップに一新してきました。
具体的には、
- カーボンリム/ディスクが前提。
- グレードはSLRとSLの2つのみ。ハイトは65、45、32の3つに統一。
- キシリウムはアルミリムの商品名に。
という変更を行いました。
これにより、従来の『キシリウムカーボン』は存在しえない商品名になります。今回購入したSLR32も、以前であれば『キシリウムプロカーボンSL UST ディスク』と呼ばれていたものです。
迷走していた経営の主導権争いからは信じられないような割り切ったラインナップの刷新により、リムブレーキ/ディスクブレーキに関わらず、ハイト別/カーボンのグレード別の分かりやすいラインナップとなりました(しかもスペックが高く、競合ブランドよりも安い)。
ディスクブレーキのSLR/SLモデルに関しては、モデルの一覧および各スペックは以下のようになっています。
名称 | リム高 | 内寸 | 外寸 | 重量 | 価格(税込) |
コスミックSLR65ディスク | 64 | 19 | 26 | 1,540 | 297,000 |
コスミックSL65ディスク | 64 | 19 | 26 | 1,750 | 198,000 |
コスミックSLR45ディスク | 45 | 19 | 26 | 1,440 | 297,000 |
コスミックSL45ディスク | 45 | 19 | 26 | 1,575 | 198,000 |
コスミックSLR32ディスク | 32 | 21 | 28 | 1,390 | 297,000 |
コスミックSL32ディスク | 32 | 21 | 28 | 1,499 | 197,000 |
SLR32の主要なスペックに関しては、上記の通りです。その他のポイントとしては、SLRラインは前述の通りニップルホールが無い構造であることが挙げられます。
これは『FOREテクノロジー』という、以前からアルミリムモデルには使われていた技術をディスクブレーキモデルにも適用したものです。ニップルを直接リムに埋め込むことで、ニップルホールを不要にしています。これによりチューブレステープが不要になり、軽量化と高剛性化、トラブルの軽減を実現しています。
実測重量
実測重量です。SLR32ディスクの公称重量は、前述の通り前後セットで1,390gでした。
実測すると、フロント:653g。
リア:787g。
合計で1,440gです(※シマノフリーの場合)。約4%の誤差ですが、まぁ許容範囲でしょうか。
ちょっと納得出来ないのは、1,440gという重量がSLR45の公称重量と同じであるという点。ただし、リムの幅はSLR32の方が2mmも太いので、比較条件は同じではありません。SLR45が内幅21mmにしたら、数十gは重量が増えるはず。
重量の謎
ちなみにこのSLR32ですが、製造年によって重量が異なる可能性があります。公称重量が2021年は1,410g、2022年は1,390gと変化しているのです。軽くなった理由は不明です。当初の1,410gが誤りで、しれっと1,390gに修正された可能性もあります。
MAVICのラインナップが一新され、カーボンホイールのグレードがSLR/SLの2つに整理されたのが2021年から。発表当時(2020年9月)のcyclowiredの記事がこちら。
この記事では、SLR32の重量は1,415gとなっています。SLR45は1,470g。
またこの時点では、SLR45だけが先行して発売されました。先行発売されたSLR45ですが、リムのカーボン表面には折り目の見える『クロスカーボン』が使用されています。当時(2021年2月)のcyclowiredのインプレ記事はこちらです。この記事でもSLR45の重量は1,470gとなっています。
SLR32のインプレ記事が登場するのは、2021年5~6月にかけて。以下は2021年6月のcyclowiredの記事です。重量はまだ1,410gとされていますが、リム表面についてはクロスカーボンではなくいつの間にかUD(ユニディレクショナル)カーボンが採用されています。
続いて、2021年10月にはSLR45が更にリニューアルして登場します。こちらはBicycle Clubの記事ですが『リム表面の仕上げがUDカーボンに変わった』、『UDカーボンに変更されたことで、30gの軽量化を果たした』とあります。SLR45はUDカーボンへの変更で1,470g⇒1,440gへ軽量化されたのです。
(UDカーボンは表面に使われているだけと思いますが、それで30gも軽くなるのか…?)
そして前述の通り、SLR32は最初からUDカーボンなのです。軽くなる要素が無いのですが、2021年9月のワイズロード京都店のブログでいつの間にか『1,390g』という表記が出てきます。一般的には、2022年モデルが出始める季節ですね。気が付くと20g軽くなっていた不思議。他にも2021年10月のとあるショップのブログで『2022年新製品』としてSLR32が紹介されており、重量は1,390gとされています。
2022年から仕様が変わり20g軽くなったのか、それとも最初から1,390gだったのか。調べただけでは分かりませんでした。個人的には『君の個体は2021年モデルだから、重いんだよね!』と言われた方が公称重量との誤差が30gになるので、まだすっきりします。
私が購入したショップの店頭にはかなり以前から在庫されており、プライスタグに書かれている重量も『1,410g』でした。よってその当時に入荷したものだと思われます。私は購入を検討している段階でこの重量の変化に気づいていたので、あえて在庫を買わずに新品を発注して店頭在庫品と重量の比較をしようかとも思いましたが、さすがに止めました。
この辺りの経緯をご存じの方がいましたら教えて欲しいです。マヴィックジャパンから『SLR32の重量修正のご連絡』なんてレターが届いていたりすると、話が早いのですが。しかしシマノですらスペックに誤記があっても無言でいつの間にか修正されているのが常なので(大量の商品がありますから、都度公表していたらきりがないのでしょう)、難しいとは思います。
各部詳細
各部の詳細です。まずはリム幅。内幅21mm、外幅28mmとありますが、内幅はスペック通り。外幅は約27mmでした。
リムは、この通りニップルホールがありません。テープが不要なのは楽で良い(タイヤとの嵌め合いが緩い場合はテープを巻くこともある)。
リムにはこのようにニップルの受け側となるインサートが埋め込まれており、そこにゴツいニップルを取り付ける構造です。
スポークはスチール製。両端以外はエアロ形状のストレートプル。
ハブはアルミ製。スポークは2クロス。スポークの長さは全て同じになっており、スポーク同士が接触することがないフランジ構造になっています。
フリーボディはINSTANT DRIVE 360。40Tの面ラチェットが噛み合う構造です。ラチェットの数ですが、例えばDTswissでは18/36/54Tの3グレードが用意されています。36Tでもハイエンドに適用されるラチェット数なので、40Tがデフォルトというのは良心的といえます。
■レビュー
最後にレビューです。まず私自身のスペックですが、身長170cm、体重57kg。FTPは200W前後をうろうろしてます。参加するイベントはブルべがメインなので、出し入れの激しい走りはしません。
SLR32に組み合わせたタイヤは、パナレーサーのAGILEST LITE(25C)およびAGILEST(28C)。使用したチューブは、同じくパナレーサーのR’AIRです。空気圧は4.5barで運用しています。
このホイールで約1,000km走りましたが、総合的な印象はロングライドの優等生。40km/h以下で走る分には非常に扱いやすいです。軽いので漕ぎ出しは軽い、ハイトが低いのでスポークは長くなり感触はマイルド。反面、かかりもマイルドですし、40km/hくらいからは加速するのに苦労します。
リムの内幅が21mmあるので、28cのタイヤを付けるとツライチになります。28cを使うのであれば、19mmのホイールよりも安定すると思います。
ハイトが低いので、高速で一直線に下るとやや安定感にかけます。逆にコーナーが連続する下りでは、加減速がスムーズなので向いています。登りは言わずもがな。単純に軽さが正義。ハイトの低さは、横風にも強いです。
これらの印象のうち、いくつかはSLR32の特徴ではなく、ハイトの低いホイール全般に適用されるものがあります。SLR32特有かな?と感じる要素としては、味付けのマイルドさ。
ハイトが低くても、もっと硬い印象のホイールにすることも出来ると思うのですが、かかりと振動吸収のバランスを取るような性格になっていると思います。
インプレはタイヤやチューブを変えても変わるものですので、以上にしておきます。
■まとめ
軽くて適度な剛性があり、扱いやすいホイールです。チューブレステープも不要で運用面も楽。リム幅も広いので、太めのタイヤを使う場合は有力な選択肢になると思います。長く使える万能ホイールが欲しい人はお勧めできます。