【レビュー】基本性能が着実に向上。順当進化した『iGPSPORT iGS630S』
iGPSPORTのフラッグシップサイコン『iGS630S』のレビューです。『iGS630』がリニューアルした新機種となります。
■総合評価
- iGS630の完成度の高さはそのまま、ハードのスペックが向上
- バッテリーの持ちは45時間に大幅アップ
- GPSのデュアルバンドに対応して精度向上
■iGS630がiGS630Sに進化
iGPSPORTから2023/10/7に『iGS630S』が発表されました。見た目は前モデルである『iGS630』とほぼ同一ですが、中身はかなり進化しています。
ベースとなる機能や基本的な使い方はiGS630と変わりがありませんので、今回は製品概要をベースに、iGS630との比較や進化したポイントを主に紹介していきます。
ちなみに私はiGS630を発売直後に購入しており、直後にいきなり1000kmブルべで使用するなど使い込んでいます。レビューやiGS630/iGS630Sの操作については以下の記事を参照してください。
なお、iGPSPORTSは不具合対応や新機能実装の開発速度が非常に速いことで有名です。上記記事のレビュー内容は執筆当時のものであり、その後に改善されている不具合や実装された機能も多数あります。
入手経緯
今回は、発売前にiGPSPORTさんからiGS630Sを提供いただいていました。
ある日、代理店の日直商会さんから荷物が届きます。箱の中身はiGS630Sの他、新製品のTL30も入っていました(こちらも別途記事にします)。
iGS630はPBPには連れて行かなかったものの、割と気に入ってブルべでもメインで使っています。iGS630Sも当然のようにいきなり300kmブルべ(BRM1007スーパーアタッククリスタル)に投入されたのでした。
■製品概要
iGS630SとiGS630とのスペック比較
基本的な使い勝手はiGS630から変わりませんが、進化している点がいくつもあります。まずはiGS630SとiGS630のスペックを比較します。
iGS630S | iGS630 | |
公称重量 | 100g | 90g |
実測重量 | 96g | 90g |
ランタイム | 45h | 35h |
バッテリー容量 | 1,700mAh | 1,300mAh |
充電の高速化 | 対応 | 非対応 |
画面サイズ(inch) | 2.8 | 2.8 |
メモリ | 16GB | 8GB |
GPS | デュアルバンド対応+衛星5つ | シングルバンド+衛星5つ |
防水等級 | IPX7 | IPX7 |
価格 | 39,380円 | 29,480円 |
変更が無い機能も多いですが、機能向上している点もあります。まず目につくのはバッテリー容量のアップと、それに伴うランタイムの増加。またメモリも倍増しています。ちなみに本体サイズや外装は全く一緒で、見た目の区別は付きません。
パッケージと同梱品
詳細な説明の前に、まずはパッケージと中身を紹介します。箱もiGS630を踏襲したデザインです。
箱を開けると、本体及びアクセサリーが入っています。
本体の下には、以下のものが収まっています。各国語のマニュアル、液晶保護用プラ板とクリーニングワイプです。
アクセサリーは以下の通り。USB A-Cのケーブル、アウトフロントマウント、アーレンキー、ステム用マウント一式、ストラップです。
ステム用マウントの裏側は、平坦な形状に変更されています。ステム以外への取り付けを考慮した形状でしょうか。
パッケージの裏側には、iGS630Sのアピールポイントが記載されています。デュアルバンド対応、2.8インチスクリーン、Type-C対応、急速充電、16GBメモリです。ちなみにスクリーンサイズとType-Cは、iGS630から対応しています。
実測重量
実測重量です。今回はバッテリー容量の増加により、公称重量が100gになったとあります。iGS630の公称重量は90gでした。
実測すると、iGS630Sは96gでした。
iGS630はジャスト90gです。
外観
先ほども述べましたが、本体サイズはiGS630と同一。外観も一緒です。
このままではiGS630との区別が付きませんが、裏側を見るとiGS630Sには『S』という表記があります。またコネクタの左側上部に、気圧計用らしき穴が開いています。
起動
電源を投入します。起動時の画面デザインが変わりました。
iGS630はこの画面でしたね。
起動すると、初期画面がEdgex40風になっており、機能別のアイコンが並ぶようになりました。『まさかの本』『覚えていない』など翻訳が微妙です。まさかというのは、No wayのことでしょうかね…?
■進化した点について
ここからは、iGS630Sになって進化した機能の詳細を紹介していきます。
デュアルバンドに対応
GPS(正確にはGNSSですが)がデュアルバンドと呼ばれる2周波数帯の電波受信に対応し、精度が向上しました。GarminではEdge1040から対応している機能ですが、iGPSPORTでも対応させてきました。
電波状況の良い場所を走る分にはあまり必要とされませんが、ビルの谷間や山間部で効果を発揮します。先日走ったスーパーアタッククリスタルでは、林道区間でシングルバンドの設定をしていたEdge1040が何度か『位置をロストした』という表示を出してきたのに対して、デュアルバンドで設定していたiGS630Sは位置ロストは一度もありませんでした。
自動リルート機能
ルートナビゲーションの実行時、ルートを外れた場合に本来のルートまでの復帰ルートを表示してくれる『自動リルート機能』が実装されています。
利用するには、まずマップ画面で右上の機能ボタンを押します。続いて設定⇒ルート再計算と移動し、設定をONにします。
設定をONにした後に実際にナビをさせてテストしました。予め引いたルートから外れると警告音が鳴りルートから外れたことを知らせると共に、赤い点線で本来のルートに復帰するルートが表示されています。
更にルートを外れると、別の復帰ルートが引き直されます。
元のルートに復帰すると表示は消えました。
ちなみにこの機能は、ファームウェアV1.24以降で有効となります。購入直後は、必ずファームウェアのアップデートを行っておきましょう。
バッテリー容量の増加
バッテリー容量が1,300mAhから1,700mAhになり、約1.3倍となりました。デュアルバンドで運用を行うとバッテリー消費量が増えるため、デュアルバンドに対応させるにはバッテリー容量の増加は必須だったと思われます。
デュアルバンドを使わなければ単純にランタイムの増加につながりますから、ユーザーにとっては嬉しい機能向上です。iGS630Sの価格はiGS630よりも1万円高いのですが、高容量のバッテリーを調達したコストが大きいのではないかと思っています。
充電の高速化
充電が高速化されました。一般的な『急速充電』という単語は使っておらず『Quick charge』という表現を使っていますが、iGS630と比較すると倍の電流で充電されます。以下、条件を変えて充電速度を計測しました。
まずはPower Delivery非対応の充電器で充電した場合。左がiGS630S、右がiGS630ですが、どちらも約5V/0.5Aで充電されています。
次に充電器をPower Delivery対応(65W)の充電器に変更して測定します。iGS630Sは約5V/1.2A。
iGS630は約5V/0.5Aのままでした。
バッテリー容量の増加に伴って充電速度も向上していました。ちなみにiGS630Sを残量10%から充電を開始して残量表示の回復度合いを観察したところ、約6分ごとに10%づつ回復していきました。
メモリ容量の増加
メモリの容量が8GBから16GBに増えました。16GBというのはEdge540と同じです。Edge840は32GB、Edge1040は64GBを積んでいるのですが、ようやくハードウェアスペック的にもx40系に追いつくようになってきました。
インターフェイスの変更
TOP画面のインターフェイスもEdgex40風になりました。左がiGS630Sです。
アイコンをTOP画面に並べることにより、目的のメニューにたどり着くまでのクリック数が減ります。全ての機能では無く代表的な機能にアイコンが設定されているのですが、アイコンは設定から表示/非表示を切り替えることが出来ます。
またiGS630と同じTOP画面に戻すことも出来ます。
バッテリー残量がビジュアル化
iGS630S本体や、Di2などの電動シフトのバッテリー残量表示が項目の1つとして表示可能になり、iGS630Sではビジュアルで表示されるようになりました。
サイコンの項目の1つとして表示されるようになったのはiGS630でも同じなので、iGS630S特有の機能向上というわけではありません。個人的には、残量表示はiGS630のように数値の方が見やすいとは思います…。
登録した位置によるラップ機能に対応
サーキットエンデューロなどで需要のある『登録した位置を通過した場合にラップを切る』機能に対応しました。
ただし捕捉する衛星の数を少なくしていると(具体的にどのモードにしていたかは記録し忘れました)、ラップを切る位置が10mほどずれていました。そのためこの機能を使用する場合は、デュアルバンド+補足する衛星は5つという精度最優先の設定にしておいた方が良さそうです。
iClimbの機能強化
GarminのClimb Proに相当するiClimbの機能が強化されました。まず、こちらがiGS630でのiClimb画面。
こちらがiGS630SでのiClimb画面です。平たく言うとGarminと同様になりました。iGS630では登り区間全体を一気に表示させていましたが、iGS630Sでは画面に表示されるのは500m程度の範囲となり、詳細な斜度表示になるとともに残り区間の平均斜度も表示。画面下部にはGarminのように現在位置を示すバーが追加されました。
ちなみに画面下部にある標高と勾配の表示は、消すことも可能です。
またiGS630S/iGS630は斜度の表示を1秒ごとに計算し表示しています。そのため斜度の変化に非常にリニアに反応し、数値が目まぐるしく変わる特性がありました。iGS630Sでも1秒ごとに表示が更新されるのは変わりませんが、乱高下ぶりが多少マイルドになった印象があります。
一方のGarminは一歩遅れて斜度表示が反応するという特性です。登りに入ってから数秒後、やっと斜度表示が0%から動くというレスポンスです。スーパーアタッククリスタルでは2つ並べて斜度を表示させていましたが、正直なところどちらが良いとは一概に言えないと感じました。
■まとめ
iGPSPORTがフラッグシップと位置付ける(2023年現在)iGS630をリニューアルした新たなサイコンです。iGS630のリリースから1年半しか経っていませんが、業界トップのGarminにキャッチアップするというメッセージを強く感じる機能向上の内容となっています。
iGS630でもリリース当初はかなりコストパフォーマンスが良い機種でしたが、それでも競合のGarmin Edge x40系の牙城を崩すところまでには至らなかったのでしょうか?iGS630のファームアップデートだけでは手に負えないと判断したのか、iGS630のリリースから1年半で、ハードウェアから作り直してiGS630Sをリリースしてきました。凄まじいフットワークの軽さです。
価格は1万円ほど上がりましたが、iGS630と全く同じサイズの筐体に1.3倍の容量を持つバッテリーを収めてきたことは評価に値すると思います。ランドヌール的には非常に有難いスペックです。
Garminでは同様のハードウェアスペックで倍の価格になっていますが、もはやハードウェアでは差別化できない時代です。価格差の中身は『リアルタイムスタミナ』や『パワーガイド』などの独自機能だと思っていますが、これだけ多機能化した現状では、それらの機能が不要だと感じる人も多いはずです。
必要な機能をシンプルに実装すると、39,000円でこれだけのサイコンが作れるということだと思います。余計な機能の入っていないGarminのEdge x40系(に近いサイコン)が欲しい、という人には最適なのではないでしょうか。
私は2022年の3月からiGS630を使っています。単純に機能が足りない、この機能があれば良いのに、と感じる場面はありますが、Garminのような厄介なバグに振り回されることが(今のところ)無いので、意外と安定性も良いと感じています。第二の選択肢としてお勧めです。
廉価版という位置づけになったiGS630ならこちらから。紹介した通り、iGS630Sと決定的な違いがあるわけではありません。