【レビュー】『自転車道 vol1、2』&『ロードバイクの素材と構造の進化』
八重洲出版から発行されているヤエスメディアムックの『自転車道』のvol1&2、グランプリ出版から発行されている『ロードバイクの素材と構造の進化』を読みました。
■自転車道とは
サイスポの連載でした
CycleSportsの連載だった『自転車道』をまとめた総集編です。2014年11月号から2019年9月号まで連載されていました。取材は安井さんと吉本さん。『ベアリングってそもそも何?』とか『クロモリにクロムとモリブデンが添加されている理由は?』などを徹底的に掘り下げていきます。
※Vol1には最終回が2019年8月号とあるのですが、Vol2には2019年9月号との記載になっています。確認のためにサイスポのバックナンバーサイトを見ると、『自転車道 チタンフレームを知る旅』其の三は2019年9月号にありますので、Vol2の表記が正しいようです。
書籍の詳細には『人気連載だった』とありますが、内容からしてほとんどの人はスルーしていたはず。一部の人には熱狂的に支持されていたでしょうから、こうしてムック化しているわけですが…。
Vol1は第1回から第13回までの内容が載っています。Vol2は第14回~第31回まで。私も当時は読んでいましたが、サイスポは毎号購入するわけではなく、内容によって買って手元に置いておく場合もあれば、図書館で済ませてしまったり。この連載自体は楽しく読んでいましたが、前回の内容を忘れる、興味の薄い回は読み飛ばすなどあり、今となっては記憶が薄いです。
しかしこのように連載だけを抜き出してカラーで読みやすくまとめてもらえると、話も続いているので頭に入ってくるし、改めて理解が進みます。
各テーマについて
目次は色々なところに書いてありますが、大まかなテーマは以下の通り。
- ジオメトリについて(ブリヂストンサイクル)
- カーボンの製造について(東レ)
- 自転車の色相について(日本色彩研究所)
- ベアリングについて(NTN、近藤機械製作所)
※近藤機械製作所とはGOKISOのことです
ここまでVol1。
- 潤滑について(和光ケミカル)
- カーボンフレームの作り方について(ヨネックス)
- 鉄について(カイセイ、日本製鉄、ブリヂストンサイクル他多数)
- 塗装について(パナソニックサイクルテック)
- ケーブルについて(日泉ケーブル、亀田製作所)
- チタンフレームについて(パナソニックサイクルテック、神戸製鋼所他多数)
こちらがVol2。カッコ内は主な取材先です。足かけ6年も続いた連載ですが、これだけ取材するのは大変だったと思います。ちなみにムック化されるまでに、新日鉄住金は日本製鉄に社名が変わりました。
各回の内容は、既にその道に詳しい人には当然の内容だと思います。しかしそうで無い人にとっては、より深く知りたいと思うきっかけを作ってくれることになるのではないでしょうか。特に鉄の回はそのようなことをぼんやりと考えた事があるのですが、当然専門書を何冊も買うには至らず。この本を読んで理解は進みましたが、立場の違いによってベストとされる結論の出し方は色々あるものだと、この歳になって改めて勉強になりました。
またカーボンについて、シートから具体的な製品に仕上げるまでの製造プロセスがあそこまでのノウハウの塊とは思いませんでした。読んでいたはずなのに、全く覚えていない(笑)
■ロードバイクの素材と構造の進化
自転車道を買った翌週に、同じ本屋に行ったら自転車道があった場所に置いてあったので思わず買ってしまいました。
概要
自転車道は各メーカーに取材に行ったため、各メーカーの立場で話が進んでいきます。こちらは著者がお一人で色々な場所に取材(特にカーボンの製造プロセスについて)に行った内容を、総合的にまとめた内容となっています。
内容について
例えばカーボンの製造については、自転車道はあくまで東レという業界トップ企業の目線や理屈で構成されています。一方こちらの本は業界全体のカーボン事情が書いてありますので、トップの東レからは見えていない(ビジネスとしてリーチしていない)市場のこともカバーしています。自転車道を読んで分かった気分になってはいけない(それだけ良い本だと思いますが)、ということを体感出来ます。
両書のスタンスが異なるので仕方ないことではありますが、両方読むとより理解が深まります。
ちなみにAmazonのレビューにも書いてありますが、私が読んでも分かるレベルで間違いがありますので間違い探しをするのも楽しいです。あなたはいくつ気が付くか?これでオタク度が測定出来ます(笑)
テーマについて
ざっくりテーマについてまとめると、以下の通りです。
- カーボンフレーム、製法について
- フレームの金属素材について
- フレーム形状の動向について
- ロードバイク、コンポ、ホイールの進化について
タイトル以外にも、後半はホイールやロードバイク自体の進化についても述べられています。カーボンについて3章が割かれているのでそれなりに興味深い内容でしたが、後半は1テーマで1章なので、どうしても掘り下げが浅い感じです。
■まとめ
3冊セットで読むとなかなか楽しかったです。一気に読むのがお勧め。しばらくは居酒屋での酒の友でした。一般人はヨネックスの工場に取材なんていけないですから、知っているようで知らない事が色々クリアになりました。
どんな製品でも同じですが、『競合製品との競争に勝ち、たくさん売る』には分かりやすい性能が必要です。数値化出来て、万人にうけるようなPRポイントが無いと難しいです。それ故、最近のロードバイクの形状はどうしても似通ったものになり、『剛性xx%向上』などのキャッチコピーが躍ることになります。雑誌やメディアはそれをそのまま流し、私も含めたユーザーもそれをそのまま受け取ります。
乗り味や目に見えない部分の品質管理は数値化出来ず、そうしたマーケティングの中に埋もれてしまいがちな要素です。しかし単純に重量が軽いことだけが正義ではない様に、自転車には色々な要素や楽しみがあることを私たちは知っています。自転車道はそうしたことを再認識させてくれる本でした。
興味がある人は、ムックの方だけでも買ってみる事をお勧めします。